「大事な仲間を、お前はこんな所で……、見殺しにする気かァ!!!!」



 ウソップの叫び声が痛かった。



「バカ言え!!仲間でも人間と船じゃ話が違う!!!」



 ルフィの気持ちも良く解った。









 だからこそ…………辛かった。









 ごめんね。


 ぼくが人間だったら、ずっと一緒にいられたのに。




 でも、もう…………充分だから。


 ここまで良くしてくれただけで、充分だから。






 だから。











 …………お願いだから。










「おれと決闘しろォ!!!!」













 ダメだよ、ウソップ……。




 ぼくには、もう……そんな価値はないんだもの…………。















 たくさんのたのしいおもいで。















 それだけで、ぼくにはじゅうぶんだよ  …………   。





















「大丈夫だ!」


「お前は空を飛んだ船だ!心配すんな!!」




 ウソップが懸命に直してくれるけど。
 ……でも、自分で解ってしまう。

 ぼくには、もう……次の岸辺まで走る力はない……って…………。




 ぼくたちが産まれた時に抱えた約束。



『こっちの岸から向こうの岸まで渡してやろう』。



 それを叶えられなくなったら、船はもう『 船 』じゃないんだ……。






「わかんねェのか?!!船にとっても迷惑な話だぜ!!!」

「お前らが大好きで人の姿で現れた程のこの船が、お前らを乗せて海の真ん中で沈んじまった日にゃあオイ、死んでも死にきれねェぞ?!!」




 ああ、フランキー……。
 きみは自分の事を「解体屋」だなんて言ってたけど。
 本当は違うんだね。
 だってきみはちゃんと、「船大工」の目をしているもの。




「仮の姿とはいえ、わしらはこの町ではれっきとした船大工。ダメなものはダメだと聞き入れて欲しいもんじゃ」




 ごめんね、ウソップ。
 きみには本当に感謝してるんだ。
 でも、本当にぼくはもう、限界だから……。

 …………だから。







 これ以上、ぼくのせいで………傷つかないで欲しいんだ…………。










「待て!!!バカなマネやめろよ?!!おいっ!!!」




 水がぼくの身体を押し流す。
 宙に浮く。一瞬の浮遊。
 そして。


 次の瞬間、海面が迫っていた。








「メリーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」









 波に落ちる感覚と。



 ウソップの絶叫…………。






 ああ。


 でも。



 本当に。






 ……これで、良かったんだ…………。











 これで……もう。





 誰も傷つかないんだから…………。









 砕ける波の音。
 吹き付ける強い潮風。
 周りは打ち捨てられた船ばかり。
 今のぼくにはふさわしい場所だった。
 ぼくも、ゆっくりと朽ち果てて行くんだろう。
 ここで、忘れ去られて行くんだろう………。




 でも、それでも。
 ずっと、忘れないよ。
 みんなと旅した事。
 一緒に見て回った、全ての事を。


 その思い出だけで、ぼくには充分だから……。












 ………………。



 あ      ぁ ……。




















 それなのに。





















「じゃあ船は奪っていく!!!」




 ……ルフィの声が聞こえる。

 みんなの想いが。


 叫びが。






 みんなが。









 戦っている。





「仲間が待ってんだ!!!!邪魔すんなァ!!!!」




 みんなが戦っている。
 ウソップとロビンが連れ去られたんだ。
 だから、助けるために。

 戦いに行こうとしている。









 ああ、ダメだよ。
 その船は、帰りの便がないんだ。
 それに乗って行ったら、帰って来れないんだよ……!










 ……行かなくちゃ。
 みんなを迎えに。

 助けに。

 だってこのままじゃ、みんな帰って来れなくなるから。
 だから、ぼくが行かなくちゃ。
 みんなを迎えにいかなくちゃ!







 …………走りたい!!!








 もう1度だけでいい!
 走りたいんだ!みんなの為に。
 諦めたら終りだ。
 みんな、戦ってるんだから。

 だから……ぼくも。



 ぼくも、行かなくちゃ……!!









 …………もう1度だけ、走りたいんだ!!!














 廃船島に木槌の音が響く。
 ……ありがとう。アイスバーグさん。
 ぼくの声を……聞き止めてくれて。









 波がぼくを海へと導いた。
 風が帆を下ろしてくれる。



 迎えに行け・って。
 海がそう言ってる。








 大丈夫。
 ぼくは走れる。
 波の乗り方。
 風の読み方。

 全部、ナミが教えてくれたから。

 今、行くよ。
 みんなを迎えに。
 みんな戦ってるんだ。
 だから、ぼくも頑張るから。



 麦わら海賊団は諦めの悪さが信条なんだ。
 そうだよね?ルフィ。
 だからぼくも諦めないよ。
 最後の最後まで足掻いてみせる。
 深海の大監獄だなんて、そんな所にみんなを行かせはしない。

 だってみんなには、太陽の方がずっと似合うから。




 青空と太陽の下で笑ってる方がふさわしいんだから。










 だから。














 帰ろうみんな!!




 また…冒険の海へ!!











「メリーーーーーーーー!!!!」











 迎えに来たよ!!!











26th, MAY, 2007

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波も風も、メリーに「迎えに行け」って言ってたようで。
『世界に選ばれた男』のために。
ローグタウンの時と同じ様に。

奇跡・とは、人の心が起こすもの。
そんな風にも思った。


今回の台詞は抜粋したり捏造したり。
若干変えたりしてます。ご了承を。



2007.5.26



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