悠久の風 3 〜未来の光〜
  



 明るく柔らかく晴れ上がった空に、陽気な喧噪が何処までも響いていた。
 活気に満ちた音楽に重なる様に広がる楽し気な歌声。
 沸き起こる手拍子が更に場をもり立てる。
 子供達が踊りだし、周りの大人が喝采を浴びせる。
 広場の熱気は収まる所を知らない。


 その一角に、異様に明るい歓声が響き渡った。


「ブルーーーーーーーーーーー!!!たぁだいまーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
「おーまーたーせーッッ!!だっぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 どうやって持って来たのか疑問に思う程、大量の料理を抱えて、ルージュとリュートが駆け戻って来る。
 恐らく、途中でもまた何杯か引っ掛けて来たのだろう。テーブルを立った時より更にテンションが上がっている。
 顔を引き攣らせたブルーが身を引くよりも早く、2人は抱えた来た料理をテーブルの上にどん・と置く。
 うずたかく積み上がった食品で、前が見えなくなる程の量だった。
「……………… お  前ら   ッッ!!!」
 怒りの声よりも抗議よりも先に、2人が同時にまくしたてる。
「ホラホラ!わたあめ、りんごあめ、ドーナツにプリッツェル、アップルパイ、大判焼き、チョコバナナ、クレープとパウンドケーキに氷イチゴ、ホットビスケットにフルーツバー、カルメラ焼きも!!」
「お前はどうしてそう、甘ったるいものばかりを持って来る!!」
「こっちもあるぞー!!たこ焼き、お好み焼き、タンドリーチキンにシシカバブ、ホットドック、焼そばとフランクフルト、ステーキ焼きにフライドポテトに揚げパンにキッシュに焼きイカーーーー!!!」
「貴様は何で油くどい物ばかりを取って来るんだ!!!」
 怒鳴りつけられて、ルージュとリュートは、一瞬、顔を見合わせる。
 そしてまた同時にブルーの方へと振り返った。
 それも、満面の笑みを浮かべて。

「だって、一緒に食べたかったから!」
「そんなの、一緒に喰いたかったからに決まってんだろぅ〜?」

 にこにこにこにこと。
 酒臭いが一点の曇りも無い笑顔で。
 しかも、左右から同時に言われて。

 流石のブルーも撃沈した。



 余りにも………………能天気すぎて。




 確か……自分は考え事があって。
 調べている事もあって。
 気がかりな事があって。
 しかもそれは思うように情報が集まらなくて。

 少し、大変な思いをしていた筈だったのだが。


 …………確か、そんな状況だった筈なんだが。




 何だか。

 余りにも。

 ………………悩むのも馬鹿らしく思えて来た。



 この左右の、能天気を絵に描いたような笑顔を見ていると。




 頭を抱えていると、不意にヌサカーンが笑った。珍しい、楽し気にも聞こえる声で。
「君の負けだ、ブルー。今日ぐらいは素直に降参してはどうかね?」
「……人事だと思いやがって」
「うむ。確かに人事だな」
 そう言って尚も笑う。
 ブルーは目線を上げてきつく睨みつけた。
 ヌサカーンはその視線をあっさりと受け流す。
 ルージュとリュートが同じタイミングで2人の顔を見比べていた。

 祭りの喧噪はお構い無しで4人の間を駆け抜けて行く。
 笑い声が絶える事は無い。
 風が止む事が無い様に。
 降り注ぐ光が途絶える事がない様に。


 雲が見下ろしてふぅわりと笑った。


 ふ・とブルーが息を吐く。
 そして、緩やかな動きで空へと視線を転じて。
 その瞳を和らげた。

「…………<ヨークランド>の空に免じてやる」

 風に乗る、静かな声。
 でもそれをしっかりと聴き止めて、ルージュとリュートは歓声を上げた。
「やったーーーーーー!!!ブルーとお祭りーーーー!!!わーい、嬉しーーー!!!」
「よっしゃーーー!!!そうと決まれば、さっそく宴会だぜぇ〜〜〜!!さーあ、喰って喰って喰って喰って飲むぞーーー!!!」
「そーだよ、ブルー!!目一杯食べてもらうからね〜〜〜〜!!!」
「ちょっと待て!幾ら何でもこれ全部は喰えるか!!」
 一応は釘を刺してみるが、はっきり言って効き目は全く無い。
「じゃーねぇ、ブルー、まずはこれ食べよ!わたあめとアップルパイ!!」
「いやいや待てよ〜、ルージュ。まずは乾杯をもう1回だろぉ〜〜〜♪♪」
「あ!そうだね!!先生のワインで乾杯しよ〜〜〜♪」
「うむ。折角の酒だ。風味が抜ける前に味わってしまおうか」
「よーし、乾杯乾杯〜〜〜♪ほらほらブルーもコップを出すのだ〜〜〜♪」
「……何に乾杯するんだ」
 ブルーの基本的な問いに、2人の動きがぴたりと止まる。
 んん?と顔を見合わせて。
「普通、乾杯は何からの趣旨があって行うものだろうが」
 ブルーが更に言葉を続けて。
 2人は、ああ・とお互いに手を打った。
「そーだなぁ。何にしよーか〜〜〜」
「やっぱ、美味しい食べ物と美味しいお酒に?かな?」
「このリュート様の美声に♪でもいいぜぇ〜〜」
「それはやめとく」
「ふざけるな馬鹿」
 双子に同時に却下されて、リュートが大げさにコケた。そのまま激しく泣き真似をしてみせる。勿論、双子のどちらもあっさり無視するが。
「それでは」
 その様子を相変わらず薄い笑みを浮かべて見ていたヌサカーンが、不意に口を開いた。


「君達の輝かしい未来に、ではどうかね?」





 あり得ないようなその一言に、3人が同時に、思い切り引いた。





「ちょ…ッ、先生大丈夫?!珍しく太陽の下になんて来たから、脳ミソ融けちゃったんじゃないのッ?!!」
「セ……セセ、センセィ……?あああぁ、やっぱ人間の喰いモンは合わなかったんだろぅ?すまねぇ。俺がちゃんと止めておけば……!」
「………………貴様、医者のくせに気でも振れたか!」
 三者三様の、余りと言えば余りのいい様に、流石のヌサカーンも唖然としてしまった。
「……揃いも揃って失礼にも程があるな、君達は」
 その呟きにも、同時に反論が叩き付けられる。
「だって今の、先生のキャラじゃなかったよー?!!」
「いやあり得ねェまじであり得なさすぎだぁ〜〜」
「本気だったのなら、天変地異の前触れだろうが!!」
 やはり揃いも揃ってあんまりな台詞しか返って来なかった。
「名言だと思うのだが」
「貴様以外の人間が言えばな」
「うん。先生じゃない。そんな事言う先生、ヘン」
「頼むよぅ〜〜〜、センセー。何時ものセンセーに戻ってくれえぇ〜〜〜〜」
 リュートが泣き真似で泣き崩れる。
 ルージュは尚も、変だヘンだ・と頷き続けて。
 ブルーは完全に訝し気な表情で見据えていた。
 それらの反応に、ヌサカーンが大仰な溜息を吐いた。これも、この妖魔にしては珍しい行動だ。
「では、どうするかね?」
 うーん・とルージュが首を捻る。
「やっぱり、<ヨークランド>の美味しいご飯に・かなぁ」
「うんうん。この最高の美酒に・だなぁ」
「……<ヨークランド>の発展を祈る・ぐらい、言え」
 食い意地ばかりの台詞にブルーが眉間を押さえる。
 ルージュとリュートが顔を見合わせて。
 そして、笑った。
「んじゃ、それでいっかぁ!!」
「うん、そうだね!ブルーのヤツで行こう!!」
「つまり、何でも良いのだな」
 ヌサカーンが軽く首を傾げてそう言うと、リュートが思い切り笑った。
「そーだぜぇ。乾杯の音頭なんて、飲む為のコウジツに決まってるだろぅ〜〜♪」
 その言葉にルージュも笑う。ヌサカーンは苦笑し、ブルーは天を仰いで溜息を漏らした。
 お構い無しでリュートは全員の杯にワインを注ぐ。
 酔っぱらいの手元は大雑把で、零れる零れる!とルージュが慌てて杯を押さえた。
 4人の杯が満たされた所で、リュートが自分のを手に取り高く掲げて。
「えー、ではーーーー、いっくぞぉ〜〜〜〜!!」
 掛声、一つ。
 大きく息を吸い込む。
 そして、高らかに宣言した。

 とてもシンプルに。


「<ヨークランド>に!!!」


「わーいっ、<ヨークランド>にー!!!」
「では、<ヨークランド>の恵みに」
「……ああ」

 唱和。
 そして。




「乾杯ーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」




 晴れ渡った空の下、4つの杯がガコン・と音を立ててぶつかり合った。
 1拍の間を置いて、楽し気な笑い声が青空へと響き渡る。

 風は古(いにしえ)のままに何処までも柔らかく吹き抜けて行った。







28th. MAY, 2007


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何気ないエピソードを書きたかったのに、なんで長くなるんでしょ(汗)
これもまぁ、1話で上げれなくもない長さなんだけど……。
雰囲気的にね。2話目を分けたかったので。

実は一番書きたかったのは、
ルージュとリュートが山のような食事を抱えて来てブルーに怒られるシーンだったりしますw
見事に屋台メニューばっかり。
本当は他にも、パンとかシチューとかパスタとかもあるんですよー。……2人の目に入らなかっただけで。
…………全然、名産品じゃないぢゃん、リュート。

タイトルはFF3のフィールド曲。
響きで付けたので、深い意味は無いでス(笑)曲調とも合ってないし。
……てか、また間に「の」が入るタイトルだよ。今、気が付いた。



って、サンダー、出さなかったーーーーー!!!
や、ヤバ。今、気が付いた。
何処、行ってるんだだろうー。子供達と遊んでるのかな。
…………そう言う事にしといて下さい(汗)



2007.5.28





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