明るく柔らかく晴れ上がった空に、陽気な喧噪が何処までも響いていた。 活気に満ちた音楽に重なる様に広がる楽し気な歌声。 沸き起こる手拍子が更に場をもり立てる。 子供達が踊りだし、周りの大人が喝采を浴びせる。 広場の熱気は収まる所を知らない。 その一角に、異様に明るい歓声が響き渡った。 「ブルーーーーーーーーーーー!!!たぁだいまーーーーーーーーーーーーッッ!!!」 「おーまーたーせーッッ!!だっぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 どうやって持って来たのか疑問に思う程、大量の料理を抱えて、ルージュとリュートが駆け戻って来る。 恐らく、途中でもまた何杯か引っ掛けて来たのだろう。テーブルを立った時より更にテンションが上がっている。 顔を引き攣らせたブルーが身を引くよりも早く、2人は抱えた来た料理をテーブルの上にどん・と置く。 うずたかく積み上がった食品で、前が見えなくなる程の量だった。 「……………… お 前ら ッッ!!!」 怒りの声よりも抗議よりも先に、2人が同時にまくしたてる。 「ホラホラ!わたあめ、りんごあめ、ドーナツにプリッツェル、アップルパイ、大判焼き、チョコバナナ、クレープとパウンドケーキに氷イチゴ、ホットビスケットにフルーツバー、カルメラ焼きも!!」 「お前はどうしてそう、甘ったるいものばかりを持って来る!!」 「こっちもあるぞー!!たこ焼き、お好み焼き、タンドリーチキンにシシカバブ、ホットドック、焼そばとフランクフルト、ステーキ焼きにフライドポテトに揚げパンにキッシュに焼きイカーーーー!!!」 「貴様は何で油くどい物ばかりを取って来るんだ!!!」 怒鳴りつけられて、ルージュとリュートは、一瞬、顔を見合わせる。 そしてまた同時にブルーの方へと振り返った。 それも、満面の笑みを浮かべて。 「だって、一緒に食べたかったから!」 「そんなの、一緒に喰いたかったからに決まってんだろぅ〜?」 にこにこにこにこと。 酒臭いが一点の曇りも無い笑顔で。 しかも、左右から同時に言われて。 流石のブルーも撃沈した。 余りにも………………能天気すぎて。 確か……自分は考え事があって。 調べている事もあって。 気がかりな事があって。 しかもそれは思うように情報が集まらなくて。 少し、大変な思いをしていた筈だったのだが。 …………確か、そんな状況だった筈なんだが。 何だか。 余りにも。 ………………悩むのも馬鹿らしく思えて来た。 この左右の、能天気を絵に描いたような笑顔を見ていると。 頭を抱えていると、不意にヌサカーンが笑った。珍しい、楽し気にも聞こえる声で。 「君の負けだ、ブルー。今日ぐらいは素直に降参してはどうかね?」 「……人事だと思いやがって」 「うむ。確かに人事だな」 そう言って尚も笑う。 ブルーは目線を上げてきつく睨みつけた。 ヌサカーンはその視線をあっさりと受け流す。 ルージュとリュートが同じタイミングで2人の顔を見比べていた。 祭りの喧噪はお構い無しで4人の間を駆け抜けて行く。 笑い声が絶える事は無い。 風が止む事が無い様に。 降り注ぐ光が途絶える事がない様に。 雲が見下ろしてふぅわりと笑った。 ふ・とブルーが息を吐く。 そして、緩やかな動きで空へと視線を転じて。 その瞳を和らげた。 「…………<ヨークランド>の空に免じてやる」 風に乗る、静かな声。 でもそれをしっかりと聴き止めて、ルージュとリュートは歓声を上げた。 「やったーーーーーー!!!ブルーとお祭りーーーー!!!わーい、嬉しーーー!!!」 「よっしゃーーー!!!そうと決まれば、さっそく宴会だぜぇ〜〜〜!!さーあ、喰って喰って喰って喰って飲むぞーーー!!!」 「そーだよ、ブルー!!目一杯食べてもらうからね〜〜〜〜!!!」 「ちょっと待て!幾ら何でもこれ全部は喰えるか!!」 一応は釘を刺してみるが、はっきり言って効き目は全く無い。 「じゃーねぇ、ブルー、まずはこれ食べよ!わたあめとアップルパイ!!」 「いやいや待てよ〜、ルージュ。まずは乾杯をもう1回だろぉ〜〜〜♪♪」 「あ!そうだね!!先生のワインで乾杯しよ〜〜〜♪」 「うむ。折角の酒だ。風味が抜ける前に味わってしまおうか」 「よーし、乾杯乾杯〜〜〜♪ほらほらブルーもコップを出すのだ〜〜〜♪」 「……何に乾杯するんだ」 ブルーの基本的な問いに、2人の動きがぴたりと止まる。 んん?と顔を見合わせて。 「普通、乾杯は何からの趣旨があって行うものだろうが」 ブルーが更に言葉を続けて。 2人は、ああ・とお互いに手を打った。 「そーだなぁ。何にしよーか〜〜〜」 「やっぱ、美味しい食べ物と美味しいお酒に?かな?」 「このリュート様の美声に♪でもいいぜぇ〜〜」 「それはやめとく」 「ふざけるな馬鹿」 双子に同時に却下されて、リュートが大げさにコケた。そのまま激しく泣き真似をしてみせる。勿論、双子のどちらもあっさり無視するが。 「それでは」 その様子を相変わらず薄い笑みを浮かべて見ていたヌサカーンが、不意に口を開いた。 「君達の輝かしい未来に、ではどうかね?」 あり得ないようなその一言に、3人が同時に、思い切り引いた。 「ちょ…ッ、先生大丈夫?!珍しく太陽の下になんて来たから、脳ミソ融けちゃったんじゃないのッ?!!」 「セ……セセ、センセィ……?あああぁ、やっぱ人間の喰いモンは合わなかったんだろぅ?すまねぇ。俺がちゃんと止めておけば……!」 「………………貴様、医者のくせに気でも振れたか!」 三者三様の、余りと言えば余りのいい様に、流石のヌサカーンも唖然としてしまった。 「……揃いも揃って失礼にも程があるな、君達は」 その呟きにも、同時に反論が叩き付けられる。 「だって今の、先生のキャラじゃなかったよー?!!」 「いやあり得ねェまじであり得なさすぎだぁ〜〜」 「本気だったのなら、天変地異の前触れだろうが!!」 やはり揃いも揃ってあんまりな台詞しか返って来なかった。 「名言だと思うのだが」 「貴様以外の人間が言えばな」 「うん。先生じゃない。そんな事言う先生、ヘン」 「頼むよぅ〜〜〜、センセー。何時ものセンセーに戻ってくれえぇ〜〜〜〜」 リュートが泣き真似で泣き崩れる。 ルージュは尚も、変だヘンだ・と頷き続けて。 ブルーは完全に訝し気な表情で見据えていた。 それらの反応に、ヌサカーンが大仰な溜息を吐いた。これも、この妖魔にしては珍しい行動だ。 「では、どうするかね?」 うーん・とルージュが首を捻る。 「やっぱり、<ヨークランド>の美味しいご飯に・かなぁ」 「うんうん。この最高の美酒に・だなぁ」 「……<ヨークランド>の発展を祈る・ぐらい、言え」 食い意地ばかりの台詞にブルーが眉間を押さえる。 ルージュとリュートが顔を見合わせて。 そして、笑った。 「んじゃ、それでいっかぁ!!」 「うん、そうだね!ブルーのヤツで行こう!!」 「つまり、何でも良いのだな」 ヌサカーンが軽く首を傾げてそう言うと、リュートが思い切り笑った。 「そーだぜぇ。乾杯の音頭なんて、飲む為のコウジツに決まってるだろぅ〜〜♪」 その言葉にルージュも笑う。ヌサカーンは苦笑し、ブルーは天を仰いで溜息を漏らした。 お構い無しでリュートは全員の杯にワインを注ぐ。 酔っぱらいの手元は大雑把で、零れる零れる!とルージュが慌てて杯を押さえた。 4人の杯が満たされた所で、リュートが自分のを手に取り高く掲げて。 「えー、ではーーーー、いっくぞぉ〜〜〜〜!!」 掛声、一つ。 大きく息を吸い込む。 そして、高らかに宣言した。 とてもシンプルに。 「<ヨークランド>に!!!」 「わーいっ、<ヨークランド>にー!!!」 「では、<ヨークランド>の恵みに」 「……ああ」 唱和。 そして。 「乾杯ーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」 晴れ渡った空の下、4つの杯がガコン・と音を立ててぶつかり合った。 1拍の間を置いて、楽し気な笑い声が青空へと響き渡る。 風は古(いにしえ)のままに何処までも柔らかく吹き抜けて行った。 |
何気ないエピソードを書きたかったのに、なんで長くなるんでしょ(汗) これもまぁ、1話で上げれなくもない長さなんだけど……。 雰囲気的にね。2話目を分けたかったので。 実は一番書きたかったのは、 ルージュとリュートが山のような食事を抱えて来てブルーに怒られるシーンだったりしますw 見事に屋台メニューばっかり。 本当は他にも、パンとかシチューとかパスタとかもあるんですよー。……2人の目に入らなかっただけで。 …………全然、名産品じゃないぢゃん、リュート。 タイトルはFF3のフィールド曲。 響きで付けたので、深い意味は無いでス(笑)曲調とも合ってないし。 ……てか、また間に「の」が入るタイトルだよ。今、気が付いた。 って、サンダー、出さなかったーーーーー!!! や、ヤバ。今、気が付いた。 何処、行ってるんだだろうー。子供達と遊んでるのかな。 …………そう言う事にしといて下さい(汗) 2007.5.28 |