opening『真夜中の来訪者』












  〜 SANCTUM SANCTORUM 〜






















まだ、光と闇が平等に世界を包んでいて

人と魔物と精霊が、今より近しい所で暮らしていた時代



























 風の無い夜だった。



 半円に近くなった月が漸く東の稜線に姿を現し、痩せ細った光を天空の雲へと投げかける。
 星々は月明かりに掻き消される事無くその存在を声高に謳い。
 風の無い空を柔らかく輝く雲がゆったりと通り過ぎる。
 大地には細い月明かりに照らされた薄蒼い影が静かに揺らいでいた。

 光に属するもの達が、とうに寝静まった時刻。

 一つの影が静かに夜空を過(よぎ)って行った。
 影は空を通り過ぎ、やがて一つの街の上へと辿りつく。
 大都市ではないけれど、それなりに大きな街。
 整った街並と石畳の道の上を影はゆっくりと飛んで行く。
 そして、街外れに建つ一軒の家へと静かに舞い降りた。
 その家の、2階の一室の窓辺へと。


 月明かりが、音もなく陰る。
 ゆったりと窓辺に伸び上がる漆黒の影。
 かちり・と小さな音を立てて、窓の鍵が外れた。
 そして、静かに窓は左右に開いて行く。
 涼やかな外気がカーテンを揺らして部屋へと流れ込んだ。
 手を触れる事もなくそれをやってのけた影は、そのまま音も無く、部屋へと舞い降りる。
 ふわり・と木の床へと身を踊らせると、影はゆっくりと立ち上がった。
 同時に、その姿が朧な影から形ある物へと変化する。



 身に纏う漆黒のマント。
 高い襟を立て、その顔を半ば隠して。
 マントの裾から覗く手入れの行き届いた革靴が光を弾く。

 淡い金の髪が微かな星明かりに光を放った。
 ゆっくりと開いた瞳は、澄み切ったアイスブルー。
 全身を覆うマント越しでも解る程のすらりとした体躯。



 背筋を真直ぐに伸ばし、静かに立ち尽くしていたその男は。
 部屋を見渡し、ベッドに横たわる人影を見遣ると、その口元に笑みを浮かべた。


 その口元に覗く、鋭い牙。


 男は名をサンジといい、吸血鬼に属するものだった。












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