不意に響いた声に。 その楽しそうな声音に。 聞きたかったそのものの響きに。 反射的にルフィは振り返っていた。 そこには笑って自分を見ているゾロの姿。 それを見た瞬間、堪らなくなってルフィは升を放り出してゾロに飛びついていた。 「ゾロッ!!!!」 「お?おぅ、どうした?」 頭突きの勢いて腹に飛びついて来たルフィを難なく受け止めると、ゾロは首を傾げた。 「遊んでたんじゃねェのか?」 「ちがうッ!!!!」 首を吹き飛ばしそうに振ってそう叫んで。 ルフィはゾロを涙目で見据えた。 「ゾロッ、出てったらダメだぞ!!!」 「は?」 話が見えずに、ゾロは唖然としたが。 見上げてくるルフィの目は余りにも真剣で。 「ぜったいにダメだ!!!ゾロはウチにいるんだ!!!どこにもいっちゃダメなんだ!!!」 睨んでいる筈なのに縋る様な瞳。 その淵がせり上がって、大粒の涙が溢れた。 「ルフィ?」 理由が解らず取りあえず頭を撫でると、一層強くしがみつかれて。 「ゾロはつよいんだからな!!豆まきなんかにまけねェんだ!!!」 泣きながら叫んだその言葉に、漸くゾロは理由を思い当たった。 ああ・とちょっと間の抜けた声が出て。 それから頷いた。 「節分か。忘れてた、もうそんな時期か」 そう言って笑うゾロに、ルフィは余計に苦しくなる。 あんまりにもゾロがあっさりしているから。 じゃあな・とか言って、出て行くんじゃないか、とそんな気がして。 胸が締め付けられて。 離すもんか・と言わんばかりに、しがみつく手に力を込めた。 「ダメだったらダメだ!!!ぜったいに出てくな!!!出てったらゼッコーだぞ!!!!」 ……本当は絶交だってしたくないけれど。 でも、他にどう言えば好いのか解らなくて。 「ダメだぞ!!!!イヤだぞ、おれ!!!ゾロいないの、ヤダからなーーーーッ!!!」 叫ぶ程に溢れる涙をどうする事も出来ない。 泣きながらただ必死でしがみつく。 その頭を、ゾロがくしゃくしゃと撫でてくれた。 「出てかねェよ」 その一言に弾かれた様に顔を上げる。 見下ろす瞳は優しく笑っていた。 「……ホントか?」 「ああ。当然だろ」 瞬きしたら溢れ落ちた涙を、掌が無造作に拭ってくれる。 その手があやす様に頭を叩いた。 「……豆まきなんだぞ?」 「そうだな。それで?」 「オニたいじなんだぞ?」 「そんなの、人間の遊びだろうが」 「そうなのか?!!」 びっくりして叫ぶと、可笑しそうに声を立てて笑う。 ゾロが左手を上げると、床に落ちた升が飛び上がってその手に収まった。 後を追う様に散らばっていた豆も升の中に飛び込んでくる。 その豆を一粒摘むとゾロは口の中に放り込んだ。 それを見てルフィは慌てて叫ぶ。 「ゾロッ!!!豆まきの豆だぞ?!!」 そんなものを食べて大丈夫なのか・と、そう思ったのだが。 ゾロは口の片端を上げて見せた。 「こんなただの豆がおれに効くかよ」 不敵に笑う顔は、いつもと何も変わらなくて。 本当に大丈夫なんだと、その顔に現れていて。 「……ゾロ、出てかねェんだな!」 漸く納得がいって、ルフィの顔が輝く。 それを見て、ゾロが破顔した。 「当たり前だろうが!」 力強いその言葉に、ルフィの顔に笑みが戻る。 そのままもう1度ルフィはゾロに飛びついた。 今度は満面の笑みを浮かべて。 「やくそくだぞ!!!ゾロ、いっしょだからな!!ずーーーーっといっしょだからな!!!!」 その言葉に、ゾロが一瞬浮かべた表情を、ルフィは知らない。 「……ああ、勿論だ」 ゆっくりと頷いて。 それからゾロは、ルフィに顔を寄せてにやりと笑った。 「テメェが出てけ・っつっても居座ってやるよ」 「おう!とうぜんだ!!!」 嫌みにも拳を振り上げて嬉しそうに笑うルフィに。 ゾロは改めて可笑しそうに笑った。 人があやかしを見つけられるのは、ほんの僅かの間だけ。 大抵は2〜3歳までだけだ。 それを過ぎても見つける事が出来る人も稀に居るが、それでも10歳頃を境に見つけられなくなる。 見えなくなるのではなく、見ても認識出来なくなるのだ。 そこにあやかしがいる事を。 ルフィはもうじき8歳。 あと数年で、ゾロを見つけられなくなるだろう。 それでもゾロは気にしていなかった。 ルフィがゾロを見つけられなくても、ゾロはルフィを見ていられるから。 寂しさを感じるのは、ほんの僅かな間だけ。 基より人とは感情の在り方が違うのだ。寂しいという気持ちを引きずる事は無い。 それにその気になれば、人身に化けてその前に姿を現せる。 その度に初対面を装うのは、むしろ面白かった。 そうして、幾世代も幾年月も、人が血を繋いで行くのを見続けて来た。 升をルフィに返すと、不思議そうに首を傾げた。 「じゃあ豆まきしてもいみねェのか?」 問いかけにゾロは豆を口に放り込みながら答える。 「そうだなぁ。小鬼程度なら祓えるけどな」 まだ怪訝そうなルフィの頭を掻き回した。 「人間に悪さして遊んでるのは、大抵アイツらだからな。年に1度ぐらい脅かしてやってもいいんじゃねェか?」 「ししし!そっか!!」 その答えに納得がいったようで、ルフィがいつもの底抜けの笑顔に戻る。 そして、升をゾロの方に差し出した。 首を捻るゾロに、そのままの笑顔でルフィは言う。 「じゃあ豆まきするぞ、ゾロ!!」 鳩じゃなくて、鬼が豆鉄砲。 「……おれもか」 「そうだぞ!豆まきはかぞくでやるんだからな!!」 全開の笑顔で、更に豆を差し出してくる。 その余りにも嬉しそうな顔に、ゾロは釣られて笑った。 豆を一掴み、手に取る。 ルフィは嬉しそうに笑って、豆を掴んだ。 今度は小さな手に一杯に。 「いっくぞーーー!!オニはーーーッ、そとぉーーーーッ!!!」 威勢良く豆を放り投げる。 その様子に笑って、ゾロは豆を軽く放った。 「鬼は外、な」 ゾロが本気で豆まきなんかしたら、この辺り一帯の小鬼達は全て四方十里から全力で逃げ出さなければならなくなるだろう。 だから、あくまでも軽く。児戯程度に、豆を放る。 それでもびっくりした小鬼が慌てて走り出して行ったが。 「ふくはーーー、ウチーーーッ!!」 「おぅ、福は内だな」 楽しそうなルフィの声に、ゾロも笑い返して。 振り返ったルフィは、一層嬉しそうに笑って言った。 「ゾロもウチ!!!!」 満面の笑みに、ゾロは大きく目を見開いて。 そうして、笑った。 本当に楽しそうに。 心から嬉しそうに。 「ああ、おれも内」 「おう!ゾロもウチだぞ!!」 そう言って笑い合って。 それからまた、ルフィが豆を蒔く。 「オニはーーッ、そとーーーー!!」 威勢の良い声に、小鬼達が驚いて逃げ出して行くのを、ゾロは笑って見ていた。 3rd, FEB., 2010
|
鬼ゾロと少年ルフィの話。 随分前からイメージはあって、中々形に出来なかった話でス。 他にも色々エピソードはあるんで、その内書けたらいいな・と思うが……どうなんだろう。 自信が無いので、このカテゴリに入れときます; タイトルの元ネタは多分、「うしおととら」の「槍と少年」。 私の妖怪知識はほぼうしとらでスw ゾロの角は、鬼と言うより悪魔の角に近いかな。 ルフィの台詞がほとんど平仮名なのは、まだ小学1年生だから。 身長はゾロの腹程度。 しかし、改めて自分は子供ルフィと大人ゾロの取り合わせが好きなんだなぁ・と思ったよ。 なんかね!楽しいんだ、この年齢差が!! 2010.2.3 |