"奴がおまえの期待を裏切った時はどうする" 彼女の選択肢は限られている。 それでも望まぬ結果になる可能性は、半分。 "我が意に添わぬ時……か。殺すしか、ないだろうな" 親友(とも)の答えは、彼の予想通りのものだった。 〜その決意を促す存在(もの)〜 "少しはしゃきっとしろ!" 見ていて歯がゆくて。 放っておけなくて。 さしのべた、手。 思えばあの時に、心はすでに決まっていたのかもしれない。 「……タイガーランページ!」 「な……っ」 イルドゥンがアセルスに対して発動させた力に、彼女は耳を疑った。 『タイガーランページ』だとっ!? それは高速でくり出される猛打。『グリフィススクラッチ』と並ぶ、妖魔武具憑依能力の最高峰である。 間違っても、修行や特訓で出すものではない。 「私を殺す気か!?」 「死ねば、白薔薇を助けることは叶わんぞ」 「……っ!」 いつにない冷たい口調。 だからこそ、本気だと分かる。 殺す気で放つと。 「耐えろ。この程度で死ぬようでは、オルロワージュに瞬殺される」 その言葉が終わるや否や。 イルドゥンの小手に宿る力が、解き放たれる……! アセルスを襲う、かつてない力の連打。 「う……っ」 満足に悲鳴さえ上げられない。 これは……死ぬかも。 頭の隅で冷静にそんなことを考えている自分に、アセルスは苦笑した。 約束、したのに。 ……白薔薇。 ☆
閉じこめられた『闇の迷宮』で、失った存在(もの)があった。 オルロワージュの作り出した、何か大切なものを犠牲にしなければ出られない場所。 そこで失ったのは……。 「嫌だ、白薔薇を置いてなんて行けない!!」 「ではここで、彼女と共に永劫の闇に繋がれるか」 イルドゥンの言葉が、胸に刺さった。 「……助けるから、絶対っ。オルロワージュを倒して、迎えに来るからっ!」 「お待ちして……おりますわ」 聖母の笑みで、彼女は頷く。 その微笑みを脳裏に焼き付けて、アセルスは誓った。 打倒オルロワージュと、白薔薇の救出を。 約束した。 約束、したのだ。 だから、まだ……。 「ほう……よく耐えた」 イルドゥンの顔に、笑みが浮かぶ。 酷薄なそれに、嫌な予感がした。 「では、仕上げだ」 傷だらけのアセルスの前で、イルドゥンは再度小手を翳す。 タイガーランページを連発するつもりかっ!? 一度は耐えた。 だが、二度耐えられる自信はない。 今度こそ終わりかもしれなかった。 「その剣はただの飾りか?」 「……!」 我に返る。 イルドゥンの視線の先には、アセルスが腰に差したままの『妖魔の剣』があった。 それは白薔薇が残した、ユニコーンが憑依したままの彼女の剣。 回復の憑依能力が、そこには宿っている。 しかし、半妖のままでは使えない。 妖魔化しなければならないのだ。 「私は……人だっ」 今までの戦いで、妖魔武具を使ったことはない。 それはオルロワージュに背を向けた、アセルスの矜持だった。 「違うな、半妖だ。人であり妖魔でもある。いい加減に認めろ。でなければ死ぬぞ……!」 くだらない誇りなど捨ててしまえと、イルドゥンは言う。 生き残るために。 約束を……守るために。 「……マジカルヒール」 「タイガーランページ……!!」 一瞬の差の発動だった。 タイガーランページの凄まじい猛打の後。 アセルスが、剣を構えてそこにいた。 「……不肖の弟子にしては上出来だ」 イルドゥンのその笑みは、先程までと違い満足気で。 アセルスは、修行の終了と決戦の時が来たことを知った。 ☆
心はすでに決まっている。 揺らぐことはもうない。 針の城で、再会の運命は待ち構える。 セアトと金獅子姫を退けたアセルス達を出迎えたのは……。 「アセルス様。今こそオルロワージュ様を倒し、この城の主となる時です」 「……ラスタバン」 アセルスの声が震える。 彼は、オルロワージュの後釜に自分を据える気なのだ。 「アセルス、先に行け」 イルドゥンが前に踏み出す。 「ここは俺が引き受ける。おまえ達はオルロワージュを」 例え一人になっても戦えるように育てた。 そのための覚悟。そのための、力。 「行くぞ。イルドゥンとラスタバンは古い契りを結んだ親友同士だ。最期の時くらい、奴らだけにさせてやれ」 他者の介入を許さない絆。 不本意でも認めるしかない。 時の君に促されて、アセルスは仲間と共に走り出す。 「……死ぬなよっ、鬼師匠」 「誰に向かって言っている。おまえこそ、俺が行くまで殺されるな」 再会を約束して、今は違う道を行く。 胸に抱いた、その決意と共に……。 7th. JUL., 2008
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◇ロンママちゃんよりコメント◇ 別名『タイガーランページ』連発話。いかがでしたでしょうか。相変わらず、甘くありません(笑)。 鬼だよね、イルドゥンて。いくら鍛えるためでもやりすぎだって。 後は時の君、もうちょっと出したかったな〜。 誤字脱字がありましたら、ご容赦下さい。 わーーーー!!!ロンママちゃん、ありがとう!!! カッコいいです、イルドゥン!!! 厳しさの奥に愛情が見えます・・・! 愛ですね、これも!! こういう関係って大好きです♪ ラストが、もう、カッコ良くて格好良くて……ほぅ。 再会を約束してそれぞれの戦いに挑む2人……それぞれの決意とお互いを想う心が、少ない言葉に現れてて。 本当に素敵……♪ かっこいい話をありがとうです!!倖せだよーーー! 2008.7.7 |