"奴がおまえの期待を裏切った時はどうする"
 彼女の選択肢は限られている。
 それでも望まぬ結果になる可能性は、半分。
"我が意に添わぬ時……か。殺すしか、ないだろうな"

 親友(とも)の答えは、彼の予想通りのものだった。



    〜その決意を促す存在(もの)〜



"少しはしゃきっとしろ!"
 見ていて歯がゆくて。
 放っておけなくて。
 さしのべた、手。

 思えばあの時に、心はすでに決まっていたのかもしれない。


「……タイガーランページ!」
「な……っ」
 イルドゥンがアセルスに対して発動させた力に、彼女は耳を疑った。

 『タイガーランページ』だとっ!?

 それは高速でくり出される猛打。『グリフィススクラッチ』と並ぶ、妖魔武具憑依能力の最高峰である。
 間違っても、修行や特訓で出すものではない。
「私を殺す気か!?」
「死ねば、白薔薇を助けることは叶わんぞ」
「……っ!」
 いつにない冷たい口調。
 だからこそ、本気だと分かる。
 殺す気で放つと。
「耐えろ。この程度で死ぬようでは、オルロワージュに瞬殺される」
 その言葉が終わるや否や。
 イルドゥンの小手に宿る力が、解き放たれる……!
 アセルスを襲う、かつてない力の連打。
「う……っ」
 満足に悲鳴さえ上げられない。

 これは……死ぬかも。

 頭の隅で冷静にそんなことを考えている自分に、アセルスは苦笑した。

 約束、したのに。
 ……白薔薇。









 閉じこめられた『闇の迷宮』で、失った存在(もの)があった。
 オルロワージュの作り出した、何か大切なものを犠牲にしなければ出られない場所。
 そこで失ったのは……。


「嫌だ、白薔薇を置いてなんて行けない!!」
「ではここで、彼女と共に永劫の闇に繋がれるか」
 イルドゥンの言葉が、胸に刺さった。
「……助けるから、絶対っ。オルロワージュを倒して、迎えに来るからっ!」
「お待ちして……おりますわ」
 聖母の笑みで、彼女は頷く。
 その微笑みを脳裏に焼き付けて、アセルスは誓った。
 打倒オルロワージュと、白薔薇の救出を。

 約束した。
 約束、したのだ。
 だから、まだ……。


「ほう……よく耐えた」
 イルドゥンの顔に、笑みが浮かぶ。
 酷薄なそれに、嫌な予感がした。
「では、仕上げだ」
 傷だらけのアセルスの前で、イルドゥンは再度小手を翳す。

 タイガーランページを連発するつもりかっ!?

 一度は耐えた。
 だが、二度耐えられる自信はない。
 今度こそ終わりかもしれなかった。
「その剣はただの飾りか?」
「……!」
 我に返る。
 イルドゥンの視線の先には、アセルスが腰に差したままの『妖魔の剣』があった。
 それは白薔薇が残した、ユニコーンが憑依したままの彼女の剣。
 回復の憑依能力が、そこには宿っている。
 しかし、半妖のままでは使えない。
 妖魔化しなければならないのだ。
「私は……人だっ」
 今までの戦いで、妖魔武具を使ったことはない。
 それはオルロワージュに背を向けた、アセルスの矜持だった。
「違うな、半妖だ。人であり妖魔でもある。いい加減に認めろ。でなければ死ぬぞ……!」
 くだらない誇りなど捨ててしまえと、イルドゥンは言う。
 生き残るために。
 約束を……守るために。


「……マジカルヒール」
「タイガーランページ……!!」
 一瞬の差の発動だった。
 タイガーランページの凄まじい猛打の後。
 アセルスが、剣を構えてそこにいた。
「……不肖の弟子にしては上出来だ」

 イルドゥンのその笑みは、先程までと違い満足気で。
 アセルスは、修行の終了と決戦の時が来たことを知った。





 心はすでに決まっている。
 揺らぐことはもうない。


 針の城で、再会の運命は待ち構える。
 セアトと金獅子姫を退けたアセルス達を出迎えたのは……。
 
「アセルス様。今こそオルロワージュ様を倒し、この城の主となる時です」
「……ラスタバン」
 アセルスの声が震える。
 彼は、オルロワージュの後釜に自分を据える気なのだ。
「アセルス、先に行け」
 イルドゥンが前に踏み出す。
「ここは俺が引き受ける。おまえ達はオルロワージュを」
 例え一人になっても戦えるように育てた。
 そのための覚悟。そのための、力。
「行くぞ。イルドゥンとラスタバンは古い契りを結んだ親友同士だ。最期の時くらい、奴らだけにさせてやれ」
 他者の介入を許さない絆。
 不本意でも認めるしかない。
 時の君に促されて、アセルスは仲間と共に走り出す。
「……死ぬなよっ、鬼師匠」
「誰に向かって言っている。おまえこそ、俺が行くまで殺されるな」



 再会を約束して、今は違う道を行く。
 胸に抱いた、その決意と共に……。









7th. JUL., 2008




◇ロンママちゃんよりコメント◇

 別名『タイガーランページ』連発話。いかがでしたでしょうか。相変わらず、甘くありません(笑)。
 鬼だよね、イルドゥンて。いくら鍛えるためでもやりすぎだって。
 後は時の君、もうちょっと出したかったな〜。
 
 誤字脱字がありましたら、ご容赦下さい。



わーーーー!!!ロンママちゃん、ありがとう!!!
カッコいいです、イルドゥン!!!
厳しさの奥に愛情が見えます・・・!
愛ですね、これも!!
こういう関係って大好きです♪
ラストが、もう、カッコ良くて格好良くて……ほぅ。
再会を約束してそれぞれの戦いに挑む2人……それぞれの決意とお互いを想う心が、少ない言葉に現れてて。
本当に素敵……♪
かっこいい話をありがとうです!!倖せだよーーー!



2008.7.7





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