・・  ・・・の為に 神は虚構を厭われます
故に神の御前に於いては 
その身に如何なる罪を持とうとも
その心に如何に暗き咎を持とうとも
それらを偽る事無く告白されるように
神は必ずや
貴方の偽わり無き心を喜ばれ
己の傷を畏れぬ勇気を尊ばれ
その身を以て罪を購わんとする真摯さを愛されるでしょう
恐るるべきはその罪には非ず
罪を恐れ隠さんとするその心の弱さにあるのです
どうぞ恐れを捨て 神の御名に全てを捧げ下さいます様
神は必ずや 貴方をお救いくださるでしょう・・・ ・・




神は  必ず  や  貴方を お救い  くださ る で  しょう  ・・・ ・   ・


















 それは  本当   で す    ・・・・か  ?













 
 












 柔らかな光がその空間を満たして降り注いでいた。
 穏やかに響く声は低くも心地良く安らぎで満ちている。
 その声に低く頭を垂れる人達の姿を見遣りながらそっと席を立った。


 外に満ちあふれるは これもまた 光。


   僕は
   この 光の世界 に
   ふさわしい 『 もの 』 なのだろうか


 今、聴いたばかりの言葉が耳の奥で鳴り響き、心に柔らかくも深い陰を落とす。


 「神」さまは、全てのものをお救い下さるのだそうだ。
 偽わり無き心を捧げたものを、全て。
 己の罪を認め、向き合う勇気を持つものを。
 罪を償わんとするものを。

 でも。

 それじゃあ。


 神 さま。



 僕の様な『  罪深い存在  』でも、罪を認めるのならば救って下さるの です   か?




 僕たちは「完全な術士」となる事を命題として教えられ、育てられてきました。
 命題こそが全て。それを上回るものなど何も無い、と。
 その為ならありとあらゆる手段が許される。
 あらゆる手立てを用いて資質を手に入れて、そして。

 「対峙の相手」を倒せ・と。



 ・・・・・実の 『 きょうだい 』を   倒/殺せ   と。



 懸念を感じなくはなかったけれど。
 それでも、他の道を選べなかったから。
 他の「真実」を知らなかかったから。

 だから


 旅立ったんです。



 何も知らないままならば良かった。
 何の疑問もないままなら救われた。
 何も疑わず、<キングダム>を絶対として、教えを全てと信じて。
 ただそれだけで旅を続けられれば良かったのに。


 どうして、知ってしまったのだろう。


 偶然にも聞いてしまった言葉。
 聞き逃す事が出来なかったのは何故なのか。
 心が揺らいでしまった事に理由なんか思いつかないのに。




たとえ どんな理由があろうとも
『 身内殺し 』は大罪である と
<キングダム>は敢えてその事を教えずに
術士達を旅立たせている
ただ1つの目的の為に
『 完全な術士 』を生み出す  という目的の為だけに






 『罪』を『罪』であるとして教えられなかった僕たちは。



 それすらも肯定されると信じて育って来た僕たちは。





 僕たち は   産まれた瞬間 から 罪を背負うように   育てられた   ので しょう   か  ?





 命題の為であろうとも、罪は罪。
 赦されざる事には変わらない。
 目的は、ただ、『完璧な術士』を産み出す事。
 ただそれだけの事に、どれ程の意義があるのかも教えられず。
 それが、どれ程大切な事なのか、まるで知らないのに。
 そうなのに、何故、僕たちは戦わなくちゃいけないんですか?
 どうしても僕たちは、相手を殺さなくちゃいけないんですか?


 たった1人の『 きょうだい 』と 殺し合う。
 ただ、『命題』のために。

 <キングダム>という組織の為だけに。






僕の中にはそんな事をしなければならない理由は存在しないと言うのに












 <キングダム>にさえ産まれて来なければ、こんな命題を背負う事もなかった。













 ・・・・・・・ああ。


 そうかもしれない。




 だからこそ、<キングダム>は真実を教えないのかもしれない。

 僕のように心が挫けないように
 疑惑に押しつぶされないように。
 罪に畏れを為し嘆かないように。

 罪を罪と知って事を為すには、余りにも真実は非道だから。
 だからこそ、何も教えぬままに命題のみを与えるのかもしれない・・・・・。






 で           も  。





 全てを知ってしまった僕に、兄を コロス/倒す  事が出来るのだ  ろう か         ?








 双瞳を震わせる冷え切った白。
 月光のみに照らされた世界は大気さえも固く凍え。
 そびえ立つ岩肌に虚構の光が音も無く突き刺さる。


 その世界が微かに身震いする。
 嘆く様に。抗う様に。




 月光が岩肌で砕け涙の様に光を弾いた。




 心が悲鳴を上げる。
 『その時』が来た。
 恐れ、目を背け続けて来た『 その時 』が。


「・・・・・なぁ、どうしても避けられないのか?」
 尋ねる声に零れる吐息が震えた。
「・・・・・『命題』は絶対なんだ。僕たちはこの瞬間の為だけに育てられて来たんだよ」
「だけど、お前さぁ・・・・悩んでたんだろ?」
 背後から問う声に、目を見張る。
 態度には出さない様にしてきたつもりだったのに。
 言葉では応えず、ただその背を伸ばす。
 決意を示す様に。
 決断してみせる為に。

 震えながら左手を掲げる。
 その手の前に瞬いた光は緩やかに結び合いながら形を成し、その掌の中で具象化する。
 臙脂色の文様に彩られたそのカードを見つめ、その瞳が涙の色に光った。

 震えを飲み込む様に言葉を紡ぐ。
「<キングタム>に生まれ落ちた以上、命題を果す事は絶対なんだ。これを上回るものなんて無いんだよ」
「兄弟で殺し合う事が?おかしいって、そんなの」
 ずっと一緒に旅を続けてきた相手は引き下がらない。
 ただ、「資質を集める為の旅」としか教えなかった。
 「兄と対決する」とは言ったけれど、単に試合の様な物だと思っていたようだから。
 それ以上の含みも、持たせなかったし。
「従わなくたっていいだろう?逃げちゃえよ。そうだ、ヒューズに頼んでIRPOに保護してもらおうぜ。そうすれば」
「逃げれば処分されるだろうね」
 優しい親友の言葉を遮る。
 自分の事を思ってくれているのは良く解る。
 解る・・・・からこそ、辛い。
「だからさぁ、IRPOに頼むんだよ。あそこなら<マジックキングダム>だって手は出せないだろう?」
「僕が・・・・・・じゃないよ」
 他の選択肢は無い。
 確認した訳ではないが、恐らく・・・・きっと。
「兄が・・・・・・処分される」
 <キングダム>は、それぐらいの事はするだろう。

 息を飲む気配を背中に感じる。
 ずっと一緒だった優しい親友。
 何時でも穏やかで朗らかで温かくて親切で明るくて楽しくて面倒見が良くて。
 何時も笑っているようなそんな親友には、こんな真実は辛すぎるんだろう。

 今まで、話せなかった事が申し訳なくて。
 今更、謝罪する事に意義なんて見出せなくて。
 だから、代わりに伝えるのはたった一言。


 ゆっくりと。
 振り返る。
 決意を湛えた瞳で。
 口元を笑みの形に強要して。

 ・・・・・・・泣きそうになるのを、堪えて。



「       今まで、  ありがとう  ・・・  ・・・・・・  」



 その言葉に、彼の方こそが泣きそうな顔をした。






 震える瞳に満ちる感謝の想い。
 伝える声音にも出来る限りの温もりを点して。

 一度だけ、頷いて。





 そして背を向けた。







 世界が震える声を上げる。
 砕け散る光が新たな悲哀を生む。
 時が至った事を知る。
 恐れ拒み続けた対峙の時が。
 命題に向う、その瞬間が。


 来る。






 片足、踏み出そうとしたその時。



「ルージュ!」



 改めて、掛けられた声。

「死ぬなよ・・・・頼むから、戻って来いよ!」

 その言葉に、泣きそうな気持ちが溢れた。







 視線のみを返して地を蹴る。
 空を舞った細身がそびえ立つ岩棚の上に降りる。
 時を同じくして、相対する位置に舞い降りる姿。


 それは、限りなく酷似した存在と言えて。
 けれど、明らかに正反対の様相を持ち。

 何処までも対極でありながら、限りなく同質でいて。

 調和し合いながらも同時に拒絶する物であり。




「…………ルージュ…!」




 呼ぶ声に籠る揺るぎなき力に、瞳が震えた。






 あ    ぁ ・・・・ 。

 やはり。



 あなたは  しらない んだ    ね。

 おしえ を  ぜったい  として。
 なにもうたがわないままで。



 それならば。



 そうで あるのならば    。






 ブルー。





 ごめんなさい。

 僕は。


















 全力で貴方を倒します。

















 罪を背負うのは僕だけでいい。
 血を被るのは僕1人でいいから。
 全ては僕がこの身1つであがなうから。
 全てを 僕1人だけの 行い と    するか ら   。



 だから。


 だから、どうか。






 神  さま。







 どうか、あの人を苦しませないで下さい。
 あの人だけは、苦しまないように して  下さい    ・・・・    。






 どう  か    ・・・・・     。














 何処か遠くで終焉の鐘が鳴る。
 始まりの幕を降ろす鐘の音が。




 定められし時は来た、と。






 陽月、相反する時は来た。
 対の糸が解け往くが如く。
 紐解き離れる御手のままに。
 運命(さだめ)のみをその絶対として。






 故に。







 此処に涙の日、来たる。



 陽月、相対するが故にーーー。







28th, FEB., 2007





Lacrimosa の、ルージュサイドです。
後半は、いろんな所で対比させてみました。
見比べると…………疲れる・か、と(汗)

「罪」を「罪」と知って尚、迷わないブルーと。
「罪」を「罪」と知った為、苦しむルージュと。
一体、どちらの方が悲劇なんでしょうね。
何とも言えない。
辛いのはどちらも同じ。

ルージュのいう『親友』は、リュートの事です。
自己設定の中で、この2人は一緒に旅をしてた事になってますので。
ブルーと一緒だったのは、ヌサカーン。
これが入れ替わっていたら、何かが変わったのか。変わり様もなかったのか。


あと、作中に出てくる「宗教」は実在の物ではありません。架空の物です。
特定の宗教を揶揄するつもりも無いですので。念の為に。




2007.2.28





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