手配書問題・2






「…………冗談じゃねェぞ」


「お、ゾロ?どうしたんだよ?」
 男部屋の壁に貼られた手配書を見ながら、異様に不穏当な空気を漂わせてゾロが呟く。
 呻きにも近いその声と共に、部屋に満ちる怒気としか言いようの無い気配。
 そこへ顔を出したルフィはそんな気配には全く動じもせずに、呑気にゾロへと声をかけた。
 ゾロがルフィへと視線を転じる。が、その顔が既に凄んでいる。入って来たのがウソップかチョッパーなら、速攻で退散しただろう。
 けれどルフィは別に気にも止めずにそのまま歩み寄った。
「手配書?がどうかしたのか?」
「……見りゃあ解んだろが」
 相変わらず憮然としたままゾロが壁の手配書を示してそう言う。

 『  ”海賊狩りのゾロ”
       懸賞金
    1億2000万ベリー  』

 壁に並ぶ5枚の手配書のうち、自分自身の物を示して、ゾロは腕組みをした。
 隣に立ちルフィは首を捻り、思いついた答えに軽く唸る。
「そっか。まぁ、そうは言ってもなぁ」
「気に入らねェに決まってんだろ」
「だけどよォ」
 並んで立って同じ様に腕組みをして、ルフィは言った。

「ゾロの悪人面は今に始まった事じゃねェしなぁ」

「誰が顔の話をしてんだよ!!!」
「へ?!違うのか?!」
「当たり前だ!!女じゃあるまいし、んなこたぁどうでもいい!!!」
「じゃあ、何が気にいらねぇんだ?」
「金額に決まってんだろ!!!」
 怒鳴ってゾロは自分の手配書を拳で叩く。
 ルフィは驚いて目を丸くした。
「1億だろ?十分、高ぇじゃん」
「3億のお前に言われたくねェよ!!」
「だっておれ船長だぞ?おれの方が高くて当然だろ」
「おれだってそこに文句はねェ!!!この金額差が気にいらねェって言ってんだよ!!!」
「は?!!」


「何でテメェは3億なのに、おれは1億なんだ!!おれはお前の3分の1程度か!!!」


 凄まじい剣幕て怒鳴られた言葉は、ルフィにとっては言われても仕様がない内容で。

「い、いや、そうは言ってもよォ」
「お前が3億なら、おれは2億は越えてもいいだろうが!!!それがなんで、たったの1億なんだ!!!!」
 1億ベリーはどう考えても『たったの』などという金額ではないのだが。
 けれど、ルフィと比べてしまうと満足いかないらしく、ゾロは一層キツい表情で睨み付けて来る。
 一応、ルフィも抵抗を試みてはみるが。
「だけどほら、お前、前の、えぇと、2倍だろ?」
「テメェは3倍じゃねェかよ」
 言ってはみたがやはり無駄だった。
 けれど、はっきり言ってこれは言いがかり以外の何物でもないだろう。
 いい加減、流石のルフィも頭に血が昇る。
「んな事、おれに言ったってしょうがねェだろ!!おれが決めたんじゃねェんだから!!!」
「当たり前だ!!テメェが決めたんならたたっ斬ってる!!!」
「じゃあなんあでおれに怒鳴るんだよ!!それって八つ当たりだぞ!!!」
「あァ?!ふざけんな、八つ当たりだと?!じゃあお前もおれがその程度だと思ってんのか?!!」
「そうは言ってねぇよ!!おれが決めたんじゃねェのにおれに言うなって言ってんだ!!!」
「気にいらねェんだから仕方ねェだろ!!!大体、おれとお前にこんなに差はねェだろうが!!!」
「だからそれをおれに言うなよ!!!おれだってそんな事、思ってねェよ!!!!」
 その一言に、不意にゾロが押し黙った。
 視線だけは相変わらずきつく見据えたままだが、少しの間、沈黙が降りる。
 ルフィも口を結んで、真っ向から対峙する。
 針の上の均衡をゾロがゆっくりと破った。

「…………本当だろうな?」
「当然だろ!!」

 間髪入れず、ルフィが怒鳴り返した。
「ゾロは世界一の大剣豪になるんだから、おれとおんなじぐらい強ェに決まってんだろうが!!!」
 どこがどうしてそうなるのか今一よく解らない理屈は、それでもゾロには有効だったようだ。
 見据える視線はそのまま、口元だけが笑みの形を結ぶ。
「……解ってりゃあ、それでいい」
「だからおれは言ってねェだろ!!勝手に怒んなよな、お前!」
「ああ、悪かった」
 そう言って、ようやく視線を緩めるゾロに、ルフィは尚も憮然とした顔をしていたが。
 直ぐに同じ様に笑みを浮かべた。
 手配書の方へと一緒に視線を向ける。
「海軍のヤツらに解らせてやらねェとな」
「おう、ブッたぎってやれ。おれが許す」
「……了解、キャプテン」
 答えてからゾロは喉の奥で可笑しそうに笑って。
 そしてルフィを振り返った。


「それはつまり、おれがアイツらを潰していいって事だな?」


 一瞬、ぽかんとしてから、ルフィは言葉の意味を察したらしい。
「ええ?!ちょっと待てよ!!なんでそうなんだ!!!」
「お前が今、自分でそう言っただろ?」
「それはそうだけど、そういう意味じゃねェぞ?!!」
「斬っていいって言ったよなぁ?キャプテン」
「お前の力を解らせてやれって言ったんだよ!!そこまで言ってねェ!!!」
「海軍本部を潰したら、どのぐらいの金額が付くんだろうなァ。楽しみだぜ」
「ずりィぞ、ゾロ!!!独り占めすんなーーーーッッ!!!!」








 室内で繰り広げられる、余りと言えば余りに不穏当な会話に、入るに入れなくて困り果てた仲間が居たとか居なかったとか…………。
 








16th, JUL., 2007





懸賞金を決めるのは海軍本部なので。
その海軍本部を潰してしまった場合、誰が金額を決めるんだろう・と。

ゾロは絶対、自分とルフィの金額差が気に入らないと思う。
ルフィの方が上な事は認めるだろうけどさ。
3分の1ってのはちょっと開き過ぎかなぁ・と。
実力伯仲だよね。この2人って。
てことは、今後、ゾロの金額が跳ね上がるエピソードが入るのかな。
そうだと嬉しいけど、どうだろうなぁ。



2007.7.16



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