「…………冗談じゃねェぞ」 「お、ゾロ?どうしたんだよ?」 男部屋の壁に貼られた手配書を見ながら、異様に不穏当な空気を漂わせてゾロが呟く。 呻きにも近いその声と共に、部屋に満ちる怒気としか言いようの無い気配。 そこへ顔を出したルフィはそんな気配には全く動じもせずに、呑気にゾロへと声をかけた。 ゾロがルフィへと視線を転じる。が、その顔が既に凄んでいる。入って来たのがウソップかチョッパーなら、速攻で退散しただろう。 けれどルフィは別に気にも止めずにそのまま歩み寄った。 「手配書?がどうかしたのか?」 「……見りゃあ解んだろが」 相変わらず憮然としたままゾロが壁の手配書を示してそう言う。 『 ”海賊狩りのゾロ” 懸賞金 1億2000万ベリー 』 壁に並ぶ5枚の手配書のうち、自分自身の物を示して、ゾロは腕組みをした。 隣に立ちルフィは首を捻り、思いついた答えに軽く唸る。 「そっか。まぁ、そうは言ってもなぁ」 「気に入らねェに決まってんだろ」 「だけどよォ」 並んで立って同じ様に腕組みをして、ルフィは言った。 「ゾロの悪人面は今に始まった事じゃねェしなぁ」 「誰が顔の話をしてんだよ!!!」 「へ?!違うのか?!」 「当たり前だ!!女じゃあるまいし、んなこたぁどうでもいい!!!」 「じゃあ、何が気にいらねぇんだ?」 「金額に決まってんだろ!!!」 怒鳴ってゾロは自分の手配書を拳で叩く。 ルフィは驚いて目を丸くした。 「1億だろ?十分、高ぇじゃん」 「3億のお前に言われたくねェよ!!」 「だっておれ船長だぞ?おれの方が高くて当然だろ」 「おれだってそこに文句はねェ!!!この金額差が気にいらねェって言ってんだよ!!!」 「は?!!」 「何でテメェは3億なのに、おれは1億なんだ!!おれはお前の3分の1程度か!!!」 凄まじい剣幕て怒鳴られた言葉は、ルフィにとっては言われても仕様がない内容で。 「い、いや、そうは言ってもよォ」 「お前が3億なら、おれは2億は越えてもいいだろうが!!!それがなんで、たったの1億なんだ!!!!」 1億ベリーはどう考えても『たったの』などという金額ではないのだが。 けれど、ルフィと比べてしまうと満足いかないらしく、ゾロは一層キツい表情で睨み付けて来る。 一応、ルフィも抵抗を試みてはみるが。 「だけどほら、お前、前の、えぇと、2倍だろ?」 「テメェは3倍じゃねェかよ」 言ってはみたがやはり無駄だった。 けれど、はっきり言ってこれは言いがかり以外の何物でもないだろう。 いい加減、流石のルフィも頭に血が昇る。 「んな事、おれに言ったってしょうがねェだろ!!おれが決めたんじゃねェんだから!!!」 「当たり前だ!!テメェが決めたんならたたっ斬ってる!!!」 「じゃあなんあでおれに怒鳴るんだよ!!それって八つ当たりだぞ!!!」 「あァ?!ふざけんな、八つ当たりだと?!じゃあお前もおれがその程度だと思ってんのか?!!」 「そうは言ってねぇよ!!おれが決めたんじゃねェのにおれに言うなって言ってんだ!!!」 「気にいらねェんだから仕方ねェだろ!!!大体、おれとお前にこんなに差はねェだろうが!!!」 「だからそれをおれに言うなよ!!!おれだってそんな事、思ってねェよ!!!!」 その一言に、不意にゾロが押し黙った。 視線だけは相変わらずきつく見据えたままだが、少しの間、沈黙が降りる。 ルフィも口を結んで、真っ向から対峙する。 針の上の均衡をゾロがゆっくりと破った。 「…………本当だろうな?」 「当然だろ!!」 間髪入れず、ルフィが怒鳴り返した。 「ゾロは世界一の大剣豪になるんだから、おれとおんなじぐらい強ェに決まってんだろうが!!!」 どこがどうしてそうなるのか今一よく解らない理屈は、それでもゾロには有効だったようだ。 見据える視線はそのまま、口元だけが笑みの形を結ぶ。 「……解ってりゃあ、それでいい」 「だからおれは言ってねェだろ!!勝手に怒んなよな、お前!」 「ああ、悪かった」 そう言って、ようやく視線を緩めるゾロに、ルフィは尚も憮然とした顔をしていたが。 直ぐに同じ様に笑みを浮かべた。 手配書の方へと一緒に視線を向ける。 「海軍のヤツらに解らせてやらねェとな」 「おう、ブッたぎってやれ。おれが許す」 「……了解、キャプテン」 答えてからゾロは喉の奥で可笑しそうに笑って。 そしてルフィを振り返った。 「それはつまり、おれがアイツらを潰していいって事だな?」 一瞬、ぽかんとしてから、ルフィは言葉の意味を察したらしい。 「ええ?!ちょっと待てよ!!なんでそうなんだ!!!」 「お前が今、自分でそう言っただろ?」 「それはそうだけど、そういう意味じゃねェぞ?!!」 「斬っていいって言ったよなぁ?キャプテン」 「お前の力を解らせてやれって言ったんだよ!!そこまで言ってねェ!!!」 「海軍本部を潰したら、どのぐらいの金額が付くんだろうなァ。楽しみだぜ」 「ずりィぞ、ゾロ!!!独り占めすんなーーーーッッ!!!!」 室内で繰り広げられる、余りと言えば余りに不穏当な会話に、入るに入れなくて困り果てた仲間が居たとか居なかったとか…………。 16th, JUL., 2007
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懸賞金を決めるのは海軍本部なので。 その海軍本部を潰してしまった場合、誰が金額を決めるんだろう・と。 ゾロは絶対、自分とルフィの金額差が気に入らないと思う。 ルフィの方が上な事は認めるだろうけどさ。 3分の1ってのはちょっと開き過ぎかなぁ・と。 実力伯仲だよね。この2人って。 てことは、今後、ゾロの金額が跳ね上がるエピソードが入るのかな。 そうだと嬉しいけど、どうだろうなぁ。 2007.7.16 |