手配書問題・1






「…………冗談じゃないわよ」


「お?ナミ、どうしたんだ?」
 麦わら海賊団が誕生してから、正確に数えて3隻目になる船であるサウザンド・サニー号の図書館兼測量室に、ルフィが姿を現したのはちょうど3時を迎えた頃だった。
 ここにナミがいることは珍しくない。ここは、ナミとロビンの為に作られた部屋と言っても良いぐらいなのだし。
 むしろ、ルフィがここに姿を見せる方が珍しかった。紙と本ばかりのこの部屋に、ルフィの興味を惹くような物は殆どなかったから。
「どうって……むしろ、あんたがどうしたのよ」
 なので、顔を上げたナミがそう尋ね返したのは、当然の反応だっただろう。
「サンジがナミ連れてこねェとおやつくれねぇって言うから、呼びにきた」
 子供のような理由を告げる表情が微妙にむくれている。
 ナミは短く、あ・そう、とだけ答えると、また机に視線を落として溜息を吐く。
 その様子にルフィは怪訝そうに首を傾げた。
「だからどうしたんだよ、お前。ハラでも痛ェのか?」
「そんなんじゃないわ。……コレよ、コレ」
 深く溜息を吐きながらナミが指差したのは、机の上に置かれた1枚の紙。

 『  ”泥棒猫” ナミ
       懸賞金
     1600万ベリー  』

 それは、ナミ本人の手配書だった。
 その手配書を前に、ナミは頭を抱える。
「…………どうしてこうなるのよ」
「そっか、ソレか。うん、確かに問題あるよな」
「ルフィ、解ってくれるの?」
 頷くルフィにナミは驚いて顔を上げた。
 自分から望んで海賊になったルフィにとって懸賞金が上がる事は喜び以外の何物でもない。今回もとんでもない金額に跳ね上がったことを大喜びしていたぐらいだ。
 けれど、ナミにとっては大迷惑この上ない事態だった。
 海賊だという自覚はあるけれど、自分が賞金首になるとは思いもしなかったし、ましてやこの金額である。他の超高額の仲間達の前には霞むが、それでも決して安いとは言えないだろう。
 自分にとっては大問題。
 けれど、この能天気な船長が、この事を理解してくれるとは思わなかった。
 視線を向ければ、ルフィは珍しく真剣な顔でナミの手配書を覗き込んでいる。
 ちょっとの驚きと軽い感動を覚えてしまった、その時。
 実に真剣な顔でルフィは言ったのだ。

「どう見ても海賊の手配書に見えねぇもんな、コレじゃ」

「そういう問題じゃないッッ!!!!」
 珍しく解ったかと思えばそう来たか!とナミが瞬時に怒鳴り返す。
 当のルフィは良く解っていないようだが。
「はぁ?だってコレ、どう見てもどっかの水着の広告じゃん」
「写真はいいのよ、写真は!!可愛く撮れてるんだから!!」
「いやそれは重要じゃねぇと思うぞ」
「凄く重要に決まってるでしょ!!!」
「そうかぁ?じゃあ何が問題なんだよ?」
 怪訝そうに首を傾げるルフィに、ナミは自分の手配書を指差して怒鳴った。
「手配書が出回った事自体が大問題でしょうが!!!」
「何でだよ?海賊にとっちゃ名誉だろ」
「あんたはそうかもしれないけど、私は違うのよ!!」
「ゾロとロビンも喜んでたぞ?」
「あの2人とも一緒にするなァ!!!!」
「だ……だけどよォ」
 今にも火でも吹きそうな勢いのナミに押されて、ルフィは後ずさりそうになる。
「ホラあのだからさ」
「なんで私までお尋ね者になるのよ?!!こんなにカワイくてか弱くて人畜無害な私が!!!」
「いやお前は強ぇと思うぞ」
「何ですってえぇ?!!」
「ああああの、いや、だからホラ!」
 ナミの気迫に完全に押されて冷や汗をかきながらも、それでもルフィが何とかこの場を逃れようとして言った事は。


「この金額!バギーより高ぇじゃん!!」


 …………それは火に油をぶちまいただけだった。

「だからそこは問題じゃないって言ってるでしょ!!ってか、なんでバギーが出て来んのよ!!!」
「ええ?!!いやだから、バギーは1500万だったしよォ、お前の方が高ぇから」
「だからなんでバギーなんかと比べてるのかって言ってるのよ!!!あいつより高いからどうだって言うの!!!」
「そのつまり、お前の方がバギーより強ぇって事だろ?」
「あんなヤツより強いからって何になるのよ!!!そもそも金額の問題じゃないって言ってるでしょ!!!!」
「何でだよ!高ぇ方がいいに決まってるだろぉ?!」
「あんたと一緒にするなって言ってるでしょうがっ!!!手配書が出回る事自体が問題だって、何回言えば解るのよ!!!!」
「だからどうしてそれがマズいんだよぉ?!!」
「……ッ、いい加減にして頂戴!!!!」








 ……4分後、痺れを切らしたサンジがナミを迎えに来るまで、このまるで噛み合ない不毛な言い争いは延々と続いていたという。









16th, JUL., 2007





ナミ、1600万ベリー。
バギー、1500万ベリー。
……この100万の金額差に、尾田先生の愛を感じた気がする。
あ、勿論、バギーへのw

てかむしろ、シャンクスとの差の方がとんでもないけどなぁ。
方や、四皇の一人として世界に名を轟かせ。
方や、イーストブルーの面白お笑い海賊団の船長として……。
……………………バギー、哀れ。
でも、あたしもそんなキミが好きだよw



2007.7.16



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