その心は






「ルフィ、動くな」
「へ?」

 突然、頭上から降って来た声に、条件反射的に足を止めて。
 何事かと思う暇も無く。
 『それ』は、文字通り、上から降って来た。

 良く考えたら、躱しても良かったのかもしれないけれど。
 そう思った時には既に、凄まじい衝撃とともに押しつぶされた後だった。

 芝生の甲板にうつ伏せにぶっ倒れて。
 香り高い下草に鼻をくすぐられて。
 そのまま、ちょっと、考え込んでしまう。

「………………え?」


 一体。
 何がどうしてこうなっているのか。











 晴れた空。凪いだ海。
 風は穏やかで、日差しは暖かい。
 進む航路に迷いは無く。
 目指す未来はまだ見えないけど。















「え?え、えと?」


 うつ伏せに潰されて。
 芝生の甲板に顔面を押し付けて。
 背中に乗っている『もの』が何なのか、理解はしたのだけれども。


 一体、何がどうしてこうなっているのか理解するには、ちょっと時間が必要だった。


 たしか。

 船首付近で昼寝をしてて。
 何となく目を覚まして。
 暇になって。
 そしたら、ウソップが工場の支部にいるのが見えたから。
 何してるのか見に行こうと思って。
 それで甲板を横切ってる途中で。
 いきなり呼び止められたのだ。
 頭上から、ゾロに。

「ルフィ、動くな」

 聞き慣れた声に、条件反射の様に足を止めて。
 何事かと見上げようとした時。
 ……降って来た・のだ。
 文字通り。
 ゾロが。頭上から。
 …………で・思い切り、うつ伏せにぶっ潰されてしまって。


 そして、今に至る。


 ゾロはそのまま、背中の上に座り込んでいる。
 この状況を考えれば、降って来た・と言うよりは、飛び降りて来た・と言った方が正しいのだろう。
 どっちにしろ押しつぶされている事実に変わりは無いのだが。
 背中にどっかりと、それも胡座をかいたまま、ゾロは動かない。
 ルフィからは見えないが、腕組みまでしている。
 表情は淡々としたもの。
 一体、何が目的なのか、まるで解らない。


 なんで突然、ゾロに押しつぶされなくちゃならないのか?


 首を回して、背中へ振り返った。
「ゾロ?」
 解らないなら訊くのが手っ取り早い。
 そう思ったのだけど。
 仰ぎ見たその顔は、余りにも平静で。
 むしろ首を傾げて見下ろされる。

 さっぱり訳が解らない。

 半ば呆然としていると。
 不意にゾロが口を開いた。
「潰れてねェか?」
 その問いも意味不明。
 思わず唖然とする。
「そりゃあ、ゴムだから」
 唖然としたまま、そう答える。
 他に言い様なんてないし。

 ルフィはゴムだから、何の下敷きになっても潰れはしない。
 そんな事、ゾロだって解り切ってる筈なのに?

 ポカンと見返していると。
 ゾロは1つ頷いて。
 そして、あっさりとルフィの上から降りた。
「おし」
 そのまま歩き出して、ロープを登って行く。
 戻る先は、トレーニングルーム。
 慣れた足取りでそこへ消えるのを呆然と見送って。


 そして。



 何が何だかさっぱり解らないまま取り残されてしまった。



「何なんだ一体?」

 ようやく起き上がって、胡座をかいて。
 ゾロが消えた先を見送って、呆然と呟く。
 一体、どうして潰されなくちゃならなかったのか、まるで解らない。
 突然潰されて、そのまま去って行って。
 その行動の理由は、一体、何?

『潰れてねェか?』

 ゴムなんだから、当然なのに。
 そんな事、ゾロだって解らない筈が無いのに。
 それなのに、どうして?


『そりゃあ、ゴムだから』


 見上げる空の蒼。
 行き過ぎる雲。
 戯れる風。
 潮騒。

 呆然と見送って。



 そして。







『おれは…誰にも潰されねェ………!!!』








「あ!!!」


 突然、理解した。


「あー!あー、あぁ」
 思わず呻く。
 ポン・と手を打って。
 大きく頷いた。
 そのまま頭上を仰ぎ見る。

「……だから、潰れされねェって言ってるのに」

 単なる実験だったのか。
 それとも。
 心配を掛けてたのか。

 その答えはもう返らないけれど。



 納得はしてくれた様だから。



 ルフィは立ち上がって。
 そして、歩き出した。
 何事も無かったかの様に。
 笑顔で。
 鼻歌なんかも歌いながら。





「ウソップーーー!なに、作ってるんだー?」
「わーーーーッッ!!!!ま、待てルフィ!!!今、こっち来るな!!!片付けるからちょっと待てーーーッ!!!!」















 晴れた空。凪いだ海。
 風は穏やかで、日差しは暖かい。
 進む航路に迷いは無い。
 目指す未来はまだ見えないけど。


 それでも前だけを向いて行こう。
 この大海原を何処までも。
 笑いながら。歌いながら。
 何時の日にか辿りつく、その時を信じて。











26th, JUN., 2008





ネタの神様は突然に降ってくる……仕事中にw
ゾロが降って来たよ。文字通りに。
そっから気が付いたら、こんなんになってたわ。
しかし、本当に何がしたかったのか。
単なる実験なのか、何かが心配だったのか。
どっちなのさ、ゾロにーちゃん。



2008.6.26



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