正直に言って、一体何度、殺される・と思った事か。 修行・と呼ぶには余りにも過酷な死闘の日々。 絶対にコイツは鍛える為じゃなく殺す気で戦ってやがる・と何度も思った。 限界寸前どころかとっくに限界だというのに、平気で斬り掛かって来る相手と、ひたすら真剣勝負を繰り返す毎日。 日が落ちたら、夕食を腹に詰め込んで、ぶっ倒れる様に眠るのが日常だった。 いや、酷い時には本当に重傷を負って数日間倒れるハメにもあったのだが。 その日も修行は、何時もの様に過酷を極めていた。 漸く帰り着いて、何とか食事を取り、ふらふらと部屋へと向かう。 食べずに寝た事もあるが、後でペローナに散々文句を言われてから、無理矢理にでも胃に押し込んでから寝る事にしているのだ。……何しろ、不機嫌な女程、扱いが面倒な物はない。 重たい足を引きずって部屋に辿り着き、のろのろと扉を開ける。 部屋は好きに使わせてもらっているが、あまり飾り気の無い、どちらかと言うと質素な部屋を選んでいた。 元々が城なのでどうしても広く豪華な部屋が多かったが、そういう所は却って落ち着かない。 そういう豪華な部屋の中でも特に華美な一室は、ペローナが自分好みにアレンジして使っていた。 ゾロは当然だが、内装とかに拘りは無い。 熟睡出来れば何処でも同じだ。 熟睡する場所にしても、ぶっちゃけ何も拘っていない。 何しろ、寝る気になれば時化(しけ)の甲板でも爆睡出来る男なのだから。 特に質素な部屋を選んだつもりでも、城の扉は重くてデカい。 これも修行か・と思いつつ、その扉を開けて。 溜め息を吐いて1歩踏み込んだ瞬間。 「何だこりゃあああぁぁあああああッッ??!!!」 城の壁をぶち壊すような絶叫が、響き渡った。 ほど近い森にいた動物達が、跳ね起きる程の大声だったが。 当の本人はそんな事知る由もなく、唖然として立ち尽くしていた。 扉を開けたゾロが目にしたのは、見慣れた部屋の中などではなく。 黒とピンクを基調とした、これでもか・と言う程ゴージャスに飾り立てられた、フリフリの、いわゆる「ゴスロリ」趣味のインテリアの数々だった。 あんぐりと口を開け、真っ白になって硬直するゾロの側を、目に見えない小人達が沈黙の調べを奏でながら通り過ぎて行った。 呆然としていたゾロが、ふとある物を目に留めて我に返った。 それは、何時もペローナが抱えているクマと思しきぬいぐるみ。 それが、枕元にちょこんと置いてある。 が、一体何故、そんな物がこんな所にあるのか。 よく見ると、部屋にある物は全てペローナの私物だ。 しかも、きちんと整頓して置いてある。 部屋の広さが違うから、押し込んである感は拭えなかったが、しかし、煩雑に放り込んであるワケでは無い。 明らかに、誰かが意図して運び込んだ形跡だ。 だがしかし、一体誰が、そして、ナゼ。 ますますワケが解らなくなり、首を捻っていると、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえて来た。 「ミホークッ!!!どこにいる、出て来ないか!!!」 声の方を振り返ると、怒りの表情で走って来るペローナの姿。今日は実体の様だ。 ゾロを見つけると、ペローナはそのまま詰め寄って来た。 「おいお前!ミホークのヤツを見なかったか?!!!」 「いや、見てねェが……」 すっかり慣れ切ったのか、平然とミホークを呼び捨てにする彼女に、毎度の事ながら感心する。 そして、怒りの原因も見当がついた。 「私の荷物がないんだ!!クマシーまで!!!一体、どういうつもりなんだ、あの男は!!!」 予想通りのセリフに、一瞬天を仰ぎ。 そして、意を決して片手を上げた。 「……それなんだがな」 そう言って、部屋の中を指差す。 怪訝そうな顔をしてからペローナはゾロの指し示す方を見て。 そして、絶叫を上げた。 「何だこれはーーーーーーーーッッ!!!!」 再び、夜の静寂を叩きのめす大音響が城の周囲に響き渡っていた。 「キサマ、どういうつもりだッ!!!!私のものに手を出すとは!!!」 「出してねェよ!!!!おれも唖然としてた所だ!!!!」 「じゃあどうして私の荷物が全てお前の部屋にあるんだ!!!しかもクマシーまで!!!!」 「知るかッ!!おれでもテメェでもねェんなら、犯人は独りだけだろ!!!!」 「……何事だ、騒々しい」 不意に割って入った『元凶』の声に、2人は同時に振り返った。 「何の真似だ、鷹の目ェッ!!!!」 「おいキサマ!!一体、どういう事だ、コレは!!!!」 同時に怒鳴られて、それでもミホークは動じない。 何時もの無表情のまま、訝しげに首を少しだけ曲げる。 「だから、何を騒いでいる」 「騒がずにいられるかってんだ!!!!」 「私の荷物を勝手に動かすとは、何を考えている!!!返答次第ではタダでおかんぞ!!!」 そう言われて、漸くミホークはゾロの部屋を覗き込んだ。 そして、妙にもったいぶって大袈裟な溜め息を吐く。 「……きちんと整頓してやったんだがな。何が不満だ」 「そういう問題じゃねェッッ!!!!」 「そうか、ありがとう……ってそうじゃないだろうがッッ!!!!」 思わず礼を言ってしまってから、慌ててペローナも怒鳴り返して。 既に刀に手をかけているゾロと、怒りの形相を浮かべたペローナを交互に見遣ってから、ミホークはふむ、と頷いた。 「お前達がおれを気にして、いつまでも別居しているから、気を回してやったんだがな」 「は?」 今度は同時に顎を落とすゾロとペローナを、ミホークは平然と見遣っていた。 そのまま硬直する2人を暫し交互に見つめてから。 にやり・とその口元に、実に愉し気な笑みを浮かべた。 「心配するな。夜になったらおれはお前達の部屋には近付かない様にしよう。新婚の邪魔する趣味も覗く趣味もない」 「はぁっ?!!!」 流石に今度は言われた事を理解して愕然とする2人を、笑って一瞥して、ミホークは背を向けたが。 次の瞬間その背に、見事な二重奏がぶち当たっていた。 「誰がだーーーーーーーーッッ!!!!恐ろしい事を言うな、この色ボケオヤジ!!!!」 「ふざけるなぁッ!!!!私にだって選ぶ権利があるぞ!!!誰がこんなクマシーの可愛さも解らんような無骨な男を選ぶか!!!!」 「ふ……こんな程度で照れてうろたえるとは……まだまだ青いな、ロロノア」 「照れてねェッッ!!!!どんな腐った頭で考えりゃあ、おれ達が新婚に見えるんだよ!!!」 「おいお前ッ、その言葉を使うな!!!鳥肌が立つッ!!!!」 「おれだってだ!!!!大体、最大の被害者はおれだろうが!!!!」 「なんだと?!!!荷物もクマシーもなくなった私の苦悩が解らんのか!!!だからお前はダメなんだ!!いつまで経ってもココアの1杯も淹れられる様にならないし、本当に気が利かない男だな!!」 「それは関係ねェだろ!!!!」 「痴話喧嘩は程々にしておけよ。明日の修行に響く」 不意に割って入った冷静な声は、更に怒りを煽るだけで。 見れば声の主は、既に廊下の彼方に去って行く所で。 「だから、違うと言ってるだろうがッ!!!!」 「待てキサマ!!!せめて私の荷物を部屋に戻さんか!!!!」 怒鳴ってみても効果は無く。 それどころか、肩越しに実に嫌みな笑みを返されるだけで。 完全にぶち切れたゾロが、刀を引き抜いた。 疲れてたとか、そんな事はもう意識の遥か彼方に飛び去っている。 「いい加減にしやがれ、このクソオヤジーーーーッッ!!!!」 「キサマ、私の話を聞かんかーーーーーッ!!!!」 3本の愛刀を手と口に、ゾロが飛び出して。 同様にマジギレしたペローナが、その手にミニホロを浮かべて走り出す。 その先で、ミホークは不敵な笑みを浮かべて振り返った。 何時もならこの島は静寂に包まれ、それを打ち破るものは何もないというのに。 今夜、島が本来の静けさを取り戻すのは、まだまだ先になりそうだった。 10th, JUN., 2011
|
いやベツに、ゾロをペローナをくっ付けたい訳じゃないんだけどw 意外とミホも、ワザと起こられる事をやって遊んでるのかもしれないwww しかし、ミホークにもネガティブホロウ利くのかね……。 あの島について思う事は。 国も滅んで、誰も暮らしてない筈で。 そんな王国跡地に残った城で、ミホークは暮らしてたんだから。 炊事・洗濯・掃除、全部自分でやってたんだよ、ね??? えーーーーーーとw エプロン付けて三角巾巻いて、台所に立ったり。 実に手際良く城の中を掃除して回ったり。 洗濯板片手に服をゴシゴシしたり。 してたんだよねッ、鷹の目のミホークがっっ!!!! 意外と上手だったら楽しいので、その想像のまま突っ走ってみたよw 2011.6.10 |