子供の理屈・お揃い編






「ルフィ?どうしたんだ、それ」

 ルフィの左腕に見慣れないバンドを見つけたのは、スリラーバークを出港してすぐの事。
 大きなガラス玉を並べて飾りを付けたそれは、今までは確かに付けていなかった物で。
 怪訝そうにゾロは首を傾げる。
 店屋なんてある訳の無いこの島で、何処から手に入れて来たのか。
 そもそも、こういった物に興味を持つとも思わなかったし。
 問いにルフィは得意げに笑った。
「おう、これか?カッチョイイだろー。ナミのお宝にあったから貰ったんだ」
「ナミから?!……よく貰えたな、アイツから」
「宝石じゃないからいいんだってよ。しししし!」
「……そういう理由かよ」
 その答えに納得すると、ルフィはまた嬉しそうに笑った。
 そして、ゾロに左腕を突き出してくる。
「ホラ!カッチョイイだろ?!」
 歯を見せて笑いながら得意げに自慢する姿に、思わず苦笑してしまう。
 お宝を見せびらかす様は、子供そのものだ。
「……あー、ま・そうだな」
「しししし!!」
 取りあえず頷けば、一層嬉しそうに笑って両手を振り回す。
 苦笑を消せないまま、ゾロは左手を持ち上げて軽く頭を掻いた。
 ふと手を振り回すのを止めたルフィが、じっとゾロを見る。
 その視線にゾロは怪訝そうに首を傾げた。
「?どうした?」
 訊くと1度瞬きして。
 それからまた、歯を見せて笑う。
「ししし!カッチョイイよな!!」
「……?あぁ?」
 どうにも奇妙なものを感じながら頷くと、ルフィがまた一頻り笑って。
 そしてまた笑うのを止めると、じっとゾロを見てくる。
 その段階で、気が付いた。
 違和感の一端。

 視線が、顔より若干低い事に。

「……ルフィ?」
 名を呼ぶと、はっとしてゾロを見て。
 そしてまた腕を振り回して笑う。
 一頻り笑って、ふとその視線を止めた先は、今度は自分の左腕。
 二の腕に嵌めたバンドを見て。
 そして、改めてゾロを見る。
 それからまた笑った。
 にー・っと歯を見せて。


 …………なんだと言うのか、一体。


 あまりに奇妙な行動に戸惑いを感じながら、その視線を追う様に自分の首を動かす。
 視界に入るのは、自分自身の左腕。
 何時もの黒手ぬぐいを巻いた腕だ。
 別段、変わった所も見られない。

 怪訝に思いながら視線をルフィに戻す。
 こちらも別段、変わりは無いのだが。
 ふと、ある物に目が止まった。


 そして、まさか・と思う。


「…………ル…フィ?」
「ん?」

 恐る恐る口を開けば、何時もの笑顔が返事する。
 正直に言って、確認しない方が善い様な気もしたが。


「……まさか、とは思うが…………」
「んんん?」


 問いかけ始めた口は、途中では止まらなくて。
 目の前には瞳を輝かせてこっちを見ている顔。

 その顔を見る程に、確信が募る。


 ルフィは、ガラスのバンド。
 ゾロは、何時もの黒手ぬぐい。

 そのどちらも、左の二の腕にしてあって。


 ………………と言う事は、まさか。









「…………お揃い、とか言う気じゃねェだろうな…?」






 恐々と確認した問いには。


 全開の笑顔が返事だった。







「しししし!!!いいだろ、同じだぞーーー!!!」
 嬉しそうに笑って自分の左腕を叩くルフィに。
 ゾロは間髪入れずに怒鳴り返してしまった。
「いいワケあるかーーーッ!!!外せ、このドアホ!!!」
「嫌だ!!!おれ、これ気に入ってるんだ!!」
「じゃあせめて、右腕にしろ!!」
「ええー?!!それじゃー、ゾロとお揃いにならねェだろー?!!」
「だから揃えんじゃねェって言ってんだよ!!!」
「なんでだよ?!!カッチョイイのに!!!」
「どこがだッ!!!男2人で揃えたって薄気味悪いだけだろうが!!!!」
 その言葉に、不意にルフィが黙り込んだ。
 そして少し考え込むような仕草を見せて。
 それからおもむろに頷いた。
「……そっか。2人はダメなんだな」
「…………当たり前だろうが」
 珍しく理解してくれた事に安堵すると。
 ルフィはもう1度頷いて、そして言った。

 それはもう、欠片程の曇りも無い笑顔で。





「じゃあ、みんなでお揃いにすればいいんだな!!!!」





「だから、そういう問題じゃねェだろーーーッ!!!!」
 怒鳴ってみた所で、このゴムの船長が動じるワケも無く。
 異様に嬉しそうに笑って答える。
「ん?いいだろー?!みんなでゾロとお揃い!!」
「良くねェって言ってるだろうが!!!何考えてんだ!!!!」
「みんなでゾロとお揃いの会を作る事だ!!」
「ワケ解んねェ会、立ち上げてんじゃねェ!!!!」
 本気で怒鳴っても、目の前の笑顔が崩れない。
 どうやら何時もにも増して、自分の考えに乗り気な様だ。
 その顔に、怒鳴ろうが脅そうが説得は無理・と悟り。
 ゾロは自分の黒手ぬぐいを解いた。
「じゃあ、おれが外す!!!」
 流石に頭には巻かなかったが、ポケットに押し込んでしまう様子に、ルフィの方が焦る。
「ええええぇぇえぇッ?!!!ダメだぞ、そんなの!!!!」
「知るか!!!!勝手にしろ!!!」
 くるりと背を向けるゾロに、ルフィは飛びついた。
「ダメだったらダメだ!!!ゾロはお揃いなんだぞ!!!」
「訳の解んねェ我が侭言ってんじゃねェ!!テメェが外さねェんならおれは付けねェからな!!!」
「それは却下だ!!!おれは外さねェし、ゾロは付けなきゃダメだ!!!」
「いい加減にしろよ!!背中に張り付くんじゃねェ、この小猿!!!!」
「サルはひっつくもんなんだぞ!!!」


 ぎゃあぎゃあと怒鳴り合いながら。
 甲板を歩くゾロの背にルフィはひっついたままで。
 ゾロも振り下ろそうとはしなくて。


 まぁ、何時もの事なので。


 そう思って、みんな放置しておいた。
 その内、勝手に治まるのだから・と。





 現に、10分もしない内に甲板で笑い合う2人の姿が目撃される事になる。
 結局、言い争いは済し崩しになったようで。
 ルフィはバンドを付けたまま。
 ゾロは黒手ぬぐいを外したままだったけれど。

 




6th, AUG., 2008





……いや単に、2人とも利き腕で巻くから左腕になるんだよな・とは
書きながら思ったけどさー(汗

えー、『みんなでゾロとお揃いの会』。
チョッパーとロビンとブルックは入ってくれそう。
フランキーもノリで入りそうだ。
ウソップは、げんなりしながらも付き合いで入るだろうし。
ナミとサンジは冷やかしで入りそうだw
・って事は、結局みんな入るんかー!



2008.8.6



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