「さあ、飲め!ゾロ」 「お、おぅ」 「ほら飲めって。まだだぞ!」 「ああ、飲んでる……けどよ、おい、ルフィ?」 何がどうしてこうなってるのか。 さっぱり事情が飲込めないまま。 取りあえず、ルフィと差し向かい。 注がれるままにコップを空にする。 飲み干せばすかさず酒が注がれて。 そして、飲め・と異様に迫られる。 一体、何をしたいのかこの男は。 夜、ゾロが1人で飲んでいる事自体は、まるで珍しくない。 はっきり言って、日課だ。 毎日、当たり前の様に、夜になったら酒を飲んでいる。 場所は甲板だったり展望室だったり色々だけれども。 そのゾロの側にルフィが居る事も、さして珍しくない。 基本的にはつまみ目当てである。 酒を飲むゾロの側で、つまみを食べるルフィ。 夜になると、ちょくちょく見られる風景ではあるのだが。 今日はちょっと状況が違っていた。 ゾロが飲んでいるのを見るや否や、ルフィはキッチンへと走って行って。 そしてコップを手に戻って来たのだ。 珍しく飲みたいのか・と思って注ごうとすれば、その酒瓶を奪い取られて。 そして、この飲めや飲め攻撃が始まった。 注いでくれるのは有難いかもしれないけれど、こうも連続すると流石に閉口する。 しかも、何故だかルフィはしかめっ面なのである。 眉間に皺を寄せて、難し気な顔をしながら、酒を注ぐ。 そんな仏頂面で酌をされたら、旨い酒だって不味くなるというものだ。 一体、何がしたいのか、さっぱり解らない。 どうでもいいから、事情ぐらいは説明して欲しい。 「何だ。まだまだ飲めるだろ、ゾロなんだから」 「いや飲めるけどよ、ちょっと待て」 「なんでだ。もっと飲まなきゃダメだぞ。ホラ!」 「ホラじゃねェって。なんなんだよ、今日は!」 「いいから飲め!まだまだあるんだぞ、酒は!!」 空にしたコップに即座に、なみなみと酒を注がれて。 取りあえず飲み干せば、ルフィがまた間髪入れずに注ごうとする。 だからそれより先に・と、ゾロは慌ててコップに手で蓋をした。 とにかく、先ずは注ぐのを止めさせない事には、話にならない。 けれど、ゾロのその行動を見た瞬間、ルフィが不機嫌になる。 口をへの字にひん曲げて、むっとした顔でゾロを睨みつけた。 「何だよ。もう飲めないってのか」 ずい・と顔を寄せて凄まれる。 だからと言って、ゾロだって引き下がれない。 「そうじゃねェよ。ったく、どこの酔っぱらいだテメェは」 「おれは酔っぱらいじゃねェぞ。ゾロが酔っぱらうんだ」 「バカヤロウ。おれは酒には飲まれねェよ。大体、なんでおれが酔わなきゃならねェんだ」 「酔わねェと修行にならねェだろ」 「……何の修行だよ」 「決ってんだろ。寝ながら飲む修行だ」 「は?!!!」 仏頂面のまま。 自信たっぷりに。 あまりにも平然と。 当たり前の様に言われた一言を理解するのに、若干の時間が必要だった。 その隙にルフィは、ゾロの手をどけて酒を注ごうとする。 ゾロは我に返って、慌ててまたコップを右手で覆った。 それでもルフィは瓶を傾けてくるから、今度は左手でその瓶を押さえる。 ルフィもルフィで、右手で瓶を傾けながら左手でコップを押さえているゾロの手をどかせようとする。 奇妙な体勢で押し合いへし合い、何だかバランスが取れたまま睨み合いは続いて。 こめかみに青筋立てて、ゾロが睨みつけた。 「……寝ぼけてんじゃねェよ。なんでそんな間抜けな修行をしなくちゃならねェ」 ルフィも眉根を寄せ目を眇めて挑み返す。 「当然だろ。ゾロがもっと強くなるためなんだかんな」 その言葉にゾロの視線が一層きつくなった。 「そんなアホな修行で強くなるワケねェだろうが。ふざけてんじゃねェぞ」 受けて立つ様に、ルフィも口を曲げて額を突き出す。 「ふざけてなんかねェよ。ゾロ、寝ながら飲めなかっただろ。だから飲める様にならねェとダメだ」 ひく・とゾロの口元が引き攣った。 「寝ながら飲めるワケがねェだろ。いい加減にしやがれテメェ」 むぅ・とルフィが唸る。 「いいや、飲める。飲めねェのはゾロが修行不足だからだ。だから修行すんだ」 ゾロが額を突きつける。 「修行したからって出来ねェし、出来る様になりたくもねェ。解ったか、ワガママ船長」 ルフィが額をぶつけてきた。 「なんでだよ。出来るようにならなきゃダメに決ってんだろ。ゾロこそワガママ言うな」 ゾロは斬り掛かる寸前の顔で、額をぶつけ返してくる。 「ワガママはテメェだろうが。なんでおれがそんな曲芸やらなきゃならねェんだよ」 ルフィも負けじと歯を剥いて、額を押し付けてくる。 「だって、おれは寝ながらメシが喰えるんだぞ」 ゾロの眉間の皺が深くなった。 「あァ?だからなんだってんだよ」 ルフィは口を思い切り尖らせて。 そして、言った。 ある意味、究極の我が侭を。 「おれは寝ながらメシが喰えるんだから、ゾロは寝ながら酒が飲めなきゃダメに決ってんだろ!!!」 あまりにも傍若無人な屁理屈に。 ゾロが機能停止に陥ったのは、言うまでも無い。 ゾロが固まった隙に、ルフィは素早くその手をどけて酒を注いでしまう。 そしてそのコップを取り上げると、ずい・とその口元に突きつけた。 「さぁ、飲め!!大丈夫だ、ゾロなら出来る!!!」 がつ・とコップが口にぶつかって、漸くゾロは我に返って。 押し付けられる感触に、慌ててコップを奪い取った。 「……ッ、出来るワケねェだろ、このどアホ!!!!」 「そんなハズはねェ!!!おれに出来てゾロに出来ねェワケがねェ!!!」 「おれとテメェを一緒にするな!!!」 「何言ってんだ!!!おれとゾロはおんなじイキモンなんだぞ!!!」 「いいや、絶対にテメェは違うだろうが!!!!」 「違わねェ!!!!だってロビンがそう言ってたんだから間違いねェんだ!!!」 「あいつまで、何ふざけてやがるーーーッ!!!!」 「そんな事より、修行だぞゾロ!!!!まずは酔いつぶれて寝倒れるんだ!!!そうしたら、おれが口に酒を突っ込んでやるからな!!!!」 「いい加減にしろッ!!!そんなマネ誰がやるかーーーーーーーッッ!!!!」 そうして、とっぷりと夜が更けるまで、間抜けな言い争いは続いていたという。 その間、誰も出て来なかった他の仲間達は、と言うと。 全員が共通の認識を抱えていた。 曰く。 「ま、何時もの事だから」 時は流れて、船が変わっても。 結局、本質的な事は何も変わっていないようだ。 5th, AUG., 2008
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うん。 いつまで経ってもアホとアホw 自分が樽まんま持って来た酒をゾロが飲まなかった事が、 ルフィは不満だろうなー・と思ったので。 それだけのネタwww 2008.8.5 |