4者4様






 今日も今日とて良く晴れ渡った青空に。
 爽やかな風が吹き、海も穏やかで。
 何の変哲も無い朗らかな1日が始まる。




 ………………筈だった。




「いっやー!おっはよ……」
「だから、サンジの舌がヘンだって言ってるだろ!!!!」
「クソふざけんなァ!!!コックの味覚を疑うのか、てめェは!!!!」
「…………ぉお?」

 何時も通りに目を覚ましたウソップが。
 特に変わりもなく身支度を整えて。
 当然の様に朝食のためにキッチンへ向い。
 そして、そのドアを開けて。


 ルフィとサンジの、異様に本気の怒鳴り合いに出くわすまでは。


 ドアノブに手をかけたまま、思わず固まってしまう。
 一体、朝から何の騒ぎだ・と思う。
 と言うよりは、もしかして、物凄くタイミングが悪い?と感じたが。
「だっておかしいだろ!!!なんでソースなんかかけるんだよ!!!」
「普通だろ!!!テメェの方がどうかしてるぜ、醤油なんてありえねェ!!!」
 言い争いの内容が、どうにも変で。
 しかも、妙に、馬鹿馬鹿しいような気がして。
 気付かれない様に、そぉっと回れ右しようとしたのだが。
「あ!!!ウソップ!!!!」
「おぅ、クソいいトコに来たな、長ッ鼻!!!」
「ぅげッ!!!!」
 そういう気配には妙に敏い2人にあっさりと看破されて。
 逃げる暇も無く、あっと言う間に捕まってしまった。
 凄まじい勢いで駆け寄って来た2人が、ウソップの左右の腕をがっちりと掴む。
 そして、同時に怒鳴ったのだ。


「なぁ、ウソップ!!!目玉焼きには醤油だよなッ!!!!」
「クソばか言ってんじゃねェ!!!目玉焼きにはソースってのが常識だろ?!!!なぁ!!!!」




 それはそれは、もう、本当に、…………しょうもない事を。





 その瞬間、本当に顎が床に落ちる音を聞いた気がした。


 石と化したウソップの前で、2人は尚も言い争っている。
「だからッ!ソースなんて絶対、ヘンだぞ!!!サンジ本当は味オンチだろ!!!!」
「コックの舌を愚弄する気かァ!!!!テメェこそ雑草でも喰う悪食だろうがよ!!!!」
「何言ってんだ!!!あんな不味いもんは喰わねぇぞ!!!!」
「って、喰った事あんのかーッ!!!そんなヤツの舌がアテになるかッ!!!!」
 続く怒鳴り合いを半ば白くなりながらウソップは見ていたが。
「おれの舌のが正しい!!!目玉焼きには醤油!!!そうだろ、ウソップ!!!!」
「ウソップ、テメェはマトモな味覚の持ち主だよな!!!ソース以外はあり得ねェだろ!!!!」
 再び同時に怒鳴られて。
 思わず引きそうになりながら、呆然と答えた。

 ある意味、爆弾発言を。



「……ウチは塩だったぞ?」



 予想外のその答えに、今度はルフィとサンジの方が固まった。

「……し、塩?目玉焼きに?ゆでたまごじゃなくてか??」
「クソまじかよ、オイ?」
 思わず目を丸くして訊くと、ウソップは真顔で頷いた。
「おぅ、ウチの村では塩だったぞ。それより前から思ってたけどよ、サンジの作る目玉焼き、生焼けじゃねェか?」
「はァ?!!!」
 予想外の言葉が続き、サンジが絶句した。
 隣でルフィも同じ様に顎を落として。
 ウソップは首を捻りつつ、言葉を続ける。
「いや、いっつもちゃんと黄身まで火が通ってねェからよ」
「えええぇぇ?!!!何、言ってんだよ、ウソップ!!!むしろ焼き過ぎだろ?!!!」
「待てーッ!!!!2人揃って何バカな事言ってやがる!!!ちゃんと食べごろの焼き加減だろうが!!!!」
 ルフィが驚き、サンジが怒鳴り、ウソップは慌てて。
「は?!だって目玉焼きは、きちんと黄身が固まるまで焼くモンだろ?!!で、そこに塩をパラパラってかけて喰うのが美味いんじゃねェか!!!!」
「違ェよ!!!黄身も白身の盛り上がったトコもまだトロッとしてるぐらいがいいんだぞ!!!」
「それじゃ生じゃねェかよ!!!白身はちゃんと焼いて、でも黄身がまだドロっとしてるぐらいが一番クソ美味ェに決まってんだろが!!!」
「だからそれじゃ焼き過ぎだって!!!白身のあの盛り上がってる所がプルンってしてるのがサイコーなんだぞ!!!」
「おい、ルフィ!!そんな生状態が美味い訳ねェだろ?!!!きちんと焼かないとダメだ!!!!」
「焼いちゃったら固まっちまうだろ!!!目玉焼きは、黄身破って、醤油かけて、で、ぐちゃぐちゃってかき混ぜて喰うのが一番美味いんだぞ!!!!」
「んなクソ汚ェ喰い方、すんなァッ!!!!マナーってもんを知らねェのか、てめェは!!!!」
「美味いもんは美味く喰うのが一番だ!!!!」
「だからそもそも、醤油ってのがあり得ねェんだよ!!!目玉焼きってのは、ソースをさらっとかけて、白身を少しずつ切り取って、黄身に付けながら喰うもんだ!!!!」
「いや絶対にそれはおかしいぞ!!!!」
「テメェに言われたくねェよ!!!!」
「だから、塩で喰うのが一番だって!!!!」

 怒鳴り合いが収拾付かなくなり始めた頃。

「……何の騒ぎだよ、朝っぱらから」
 不意に響いた声に、反射的に3人は振り返った。
 そこには、怪訝そうな顔で立ち尽くすゾロの姿があった。
 異様な迫力で振り返った3人に、ゾロは眉を顰めて首を捻る。
「何かあったのか?メシは……」
「ゾロッ!!!!」
 言いかけた瞬間、ルフィが噛み付く様な勢いで飛びついて。
 ウソップとサンジも負けじと怒鳴った。

「なぁ、ゾロ!!!目玉焼きには醤油だよなッ!!!!」
「絶対ェにソースだろ!!!そうだろ?!!!」
「いや、ゾロ、塩が一番美味いよなぁ?!!!」
「は?!!!」

 余りにも唐突に言われて、流石のゾロも思わず1歩引いてしまったが。
 お構い無しでルフィがその腕を掴む。
「ゾロッ、醤油だろ絶対!!!ソースとか塩とか、絶対に変だろ!!!!」
「そんな事はねェよな!!!シンプルな物はシンプルな味付けで喰うのが美味いだろ!!!!」
「てめェらコックを差し置いて何をバカな事言ってやがる!!!ゾロ!てめェの舌はマトモだろうな!!!!」
「い、いや、ちょっと待て」
「いいからさっさと答えやがれ!!!目玉焼きにはソースってのが王道だ!!!そうだよな?!!!」
「あ、卑怯だぞサンジ!!!自分の意見を押し付けるなよな!!!!」
「ゾロ、塩だよなぁ!!!!絶対、一番美味いって!!!」
「クソッタレが!!!ソースに勝るモンはねェ!!!!」
「ダメだダメだダメだーッ!!!!醤油以外は認めねェぞ、おれは!!!!」
「あの、な、お前ら」
「テメェの喰い方が一番なってねェだろが!!!」
「だって美味いんだもんよ!!!!それに塩はゆでたまごにかけるもんだ!!!!」
「そんな偏見、あるかぁ!!!!どっちも卵だろ!!!変わんねェよ!!!!」
「だからってゆで卵にソースはかけねェだろうがッ!!!!ゆで卵には塩!!!目玉焼きにはソース!!!これが常識だ!!!!」
「だからソースは常識じゃねェ!!!!」
「それ言うなら醤油もヘンだろ?!!!卵には塩なんだよ!!!!」
「お前らがヘンなんだよ!!!そうだよなッ、ゾロ!!!醤油が一番だよな!!!!」
「違うよなぁ!!!塩でさっぱりと喰うのがいいんだよな!!!!」
「テメェ、まさかコイツらと同類じゃねェだろうなッ!!!!味オンチ共の意見を真に受けてんじゃねェぞ!!!!」
「誰が味オンチだよ!!!!」
「おめェらだよ、クソッタレが!!!!」
「おッ、おれは違うぞ、おれはーッ!!!」
「うるせェ長ッ鼻!!!おめェもだよ!!!!」
「おれだってヘンじゃねェぞ!!!!なぁゾロ!!!ゾロはどれがいい?!!!」
 凄まじい勢いで話を振られ。
 その余りの勢いに呑まれて。
 思わず、答えていた。




「…マヨネーズ?」







「ッッッ?!!!」







 そりゃもう、3人が勢い良く反対側の壁まですっ飛んで行く様な答えを。



「…………ぞ、ぞろ?おれなんか今、聞いちゃいけない事を聞いた様な……」
「ええと、今のは、あの、錯覚?幻聴?」
「いや、確かに聞いたぞ、おれは。……やっぱりマリモは味覚も人類じゃねェのか」
「わッ、悪いのかよーーーーッッ!!!!」
 思わず壁に張り付いて目を見開いて呆然となる3人に、ゾロは真っ赤になって怒鳴ったが。
 否定していないその返事に、3人は一層、身体を寄せ合ってしまい。
「う…わぁ……。マジなんだぁ……。どうしよう、おれ、ゾロの見方、変えようかなぁ……」
「いやいやいや、人間、見かけに寄らねェってのは本当だったんだな」
「そうか……これからは、マリモ用の特性メニューが必要か……。やっぱり藻だから、肥料でいいのか?」
「何、言ってやがるテメェ!!!!」
「光合成すんのかな、ゾロも」
「お?ルフィ、よく知ってたな、光合成なんて」
「光と水と……あと何が必要なんだ?バクテリアか?」
「ゾロは光と酒だろ」
「いや酒ばっかりだから味覚が狂ったのかもしれねェぞ?」
「それもそうかもなぁ。……それでマヨネーズにいっちゃったのかなぁ」
「……ったくよォ。やっぱり人類とは違うモンから進化してるんだな、マリモは」
「いや、鍛錬のし過ぎで舌も鉄になってるとか……」
「…………いい加減にしやがれ、テメェらーーーーッッ!!!!」


 とうとう本気で怒ったゾロが、刀を抜いてしまい。
 その後は、まぁ当然、大乱闘で。
 朝食そっちのけでの大騒ぎになってしまって。

 結局、ナミが怒りの鉄拳を下すまで続いたと言う。






 何はともあれ。





 人の好みは千差万別。
 他人があれこれ言う物ではない・と言う事だろう。









2nd, JUN., 2008





いや、最初はゾロにマヨネーズはどうよ・と思ったんだけど。
キャベツ丸まんまにマヨネーズぶっかけて、
そのまま丸かじりしてる姿を想像したら、
物凄く笑えたので、決行w
でも現実問題として、どうなんだろう。目玉焼きにマヨネーズって。
あ・ちなみに私はルフィ派。
ぐちゃぐちゃにはしないけどねw

ま・サンジの事だから、この後は
それぞれの好みに応じた目玉焼きを作ってくれると思うけどね。
……ナミはみかんソースなのかなぁ。



2008.6.2



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