おもいのことば













 目の前の情景を、全身が、自分の全てが、受け入れる事を拒否している。












 なんで・と呆然と思う。
 それ以外の言葉が出て来ない。

 なんで。
 なんで。
 なんで。

 目の前には血塗れのゾロ。
 倒れそうになりながらも、それでも立ち尽くしている。

 辺り一面を染める血。

 周りでみんなが叫んでる。
 その声の全てが、自分を素通りする。
 叫び声が耳に入って来ない。
 自分の中でガンガン鳴り響く心臓の音の方がずっとうるさくて。


 どうして。
 どうして。
 どうして。


 一体、何があったのか。
 なぜ、こんな事になっているのか。




 起こりうる『一つの言葉』を、全てが否定している。




 その、絶望しかもたらさない『一つの言葉』を、意識から追いやりたくて。
 口にする。
 たった一つの言葉を。
 ただ独りの名前を。
 求める様に。
 縋る思いで。

 からからに干涸びた喉から、やっと絞り出す。






「     ぞ  ろ  」






 震える唇から漸く紡ぎ出した声に、その瞳が微かに応じた。

 震え、彷徨った視線が、ぎこちなく動く。
 ゆっくりと。瞳を動かすのもやっと・という風情で。
 それでも動いた瞳は。


 真直ぐに自分を捉えた。



 薄い色の双瞳に、呆然としている自分が映る。






 視線が合ったのは、僅かな間。





 その瞳は、ほんの僅かだけ、まるで笑みの様に細められて。



 そして。





 力を失った。










 瞳が伏せられ、その身体が崩れる様に倒れてくる姿が、まるでスローモーションみたいに見えた。










 考えるより先に動いた身体が、ゾロを抱きとめる。
 力を失った身体が、何故か冷たく感じられて、息を飲む。
 弛緩した四肢に、その意志を感じられなくて。
 その先に待つものを認めたくなくて。


 ぞろ。


 もう1度、名前を呼ぶ。
 その声にすら、応えは返らず。
 絶望に取り憑かれる前に、再度、声を振り絞る。
 頭の中で、駆け巡る言葉の中から、口に出来たのは一言だけ。




「     や   く そく  」



 その声に、腕の中の身体に、熱が戻った気がした。


 いや、気の所為なんかじゃない。
 そう思い、もう1度、口にする。
 繋ぎ止める為の言葉を。
 嫌な考え全てを追い払う為に。

「ゾロ、約束」

 意志を込めて口に乗せた言葉に。
 伝える為に。求める為に。
 望みを乗せて。
 思いを託して。
 送る、その一言に。


 指先が、僅かに動いた。






 それが、今のゾロの、精一杯の返事だと解った。






 唇を噛み締めて、息を飲込んで。
 少しだけその手に力を籠めて。
 そして顔を上げる。
「チョッパー」
 声はもう、震えなかった。
 向けた視線の中に、泣きそうな顔で立ち尽くしているチョッパーの姿が入る。
 その揺れる瞳を真直ぐに捉えて。


「ゾロを頼む」



 託す言葉は一言だけで。
 それでも、全てが通じた。



 任せろ!・と叫んで駆け寄って来たチョッパーに、ゾロの身体を渡す。
 直ぐに治療に取りかかるチョッパーから、静かに身を引いた。
 今、自分に出来ることは無いから。
 だから、ただ待つ。


 信じて。


 チョッパーの腕を。
 ゾロの意志を。

 ただ、信じて。
 そして、貫いて。


 待つ。




 それが、今の自分に出来る全てだから。




「…………大丈夫だ」


 静かな声に返る言葉が無くても。



「ゾロは死なねェ」



 その想いが揺らぐ事は、もう無かった。












17th, SEP., 2009





というワケで。
ルフィも平然としてたんじゃないの。
呆然としすぎて、身動き出来なかったのよ。
んで、チョッパーも、それに気付けないぐらい動転してたの。

そんなお話。
いい訳とも言うねw



オマケついでに、目を覚ましたゾロに喜んで飛びつくお子様達w
またもやラフで失礼。






2009.9.17



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