モリアを倒して、スリラーバークが崩壊して、丸1日が経って。 まだ眠ったままのゾロを除く全員で、盛大に勝利の宴を行った。 ブルックが正式に仲間になった事もあって、ある意味いつも以上に盛り上がった宴がようやくお開きなったのは少し前。 とてつもなく大量の料理をたった1人で振る舞ったサンジは、その疲れを見せもせずに後片付けに勤しんでいた。 そこに現れたのは、すっかりナミと仲良くなったローラ。 笑顔でサンジに声をかける。 「悪いわね、すっかり恩人にまかせ切っちゃって」 「ああ、気にすんなって。大した手間じゃねェしよ」 銜え煙草で上機嫌にサンジは答えた。 料理を作るのは当然好きだし苦に思った事もないが、片付けだって別段嫌いじゃない。 綺麗に食べ尽くされた皿を見ると、何とも言えない満足感が湧いて来るのである。 「あんたらみんな、今まで何年もこんなトコで大変な思いをしてたんだろ?ようやく解放されて、最初の食事ぐらい何も考えずに喰ったってバチは当たらねェって」 拭き終えた皿を高く積み上げて、サンジは笑う。 その笑顔を見てローラもにっこりと笑った。 「あんた、本当にいい人ね。…………って、あら?」 「おぅ、どういたしまして。…………って、どうした?」 賛辞に答えてから、ふと手を止める。 ローラは何だかじっとサンジを見つめて立ち尽くしていた。 「おれの顔になんか付いてるのかい?」 「いいえ、そうじゃなくて」 丸い目が食い入る様にサンジを見つめる。 感情を伺わせず、ただじ…っと見つめている。 こういう見つめられ方は余り経験が無いから、流石にサンジも首を捻った。 なんとも言えない微妙な沈黙が少し。 ゆっくりとローラが、それを破った。 「…………本当に、いい人よね、あんたって」 「お、おぅ?どういたしまして?」 繰り返される言葉は、確認の響きを持っていて。 サンジの頭の上に『?』が浮かぶ。 ローラは更に食い入る様にサンジを見つめた。 「強いし、料理上手だし、いい人だし、眉毛ちょっと変わってるけどいい男だし」 「……最後のは余計だろ」 そこにだけは引っかかってしまったが。 ローラはやっぱりサンジを見入ったまま。 「…………本当にいい人なのに」 「だから何なんだよ」 余りにも進まない会話に、さすがにちょっとイラッとしてきたけれど。 そんなサンジにローラは顔を近づけて。 そうして、怪訝そうに言ったのだ。 ある意味……爆弾発言を。 「なんであんたにはプロポーズしようって気が起きないのかしら」 「……ッッ?!!!」 一瞬にしてサンジは、手にしていた大鍋を吹っ飛ばして、5m近く飛び退ってしまっていた。 それを見ても、ローラは動じ無かったのだけれども。 それどころかにっこりと笑って。 「あら、テレ屋さんでもあるのね。かわいいじゃない」 大慌てでサンジは両手と首を、もげ落ちそうな勢いで振る。 「いッ、いやいやいやいや!!!そうじゃねェ!!!」 その全否定を見ても、やっぱりローラは気にしなくて。 不思議そうに首を捻る。 「ますますいい男なのにねぇ……どうしてプロポーズする気が起きないのかしら。変よねぇ?」 「だだだ、だからちょっと、タンマ!!確かにあんたは、中々の女傑でオトコマエ……じゃなくて、オンナマエだが、だが、おれはちょっとその…………そ、そう!お、おれにはナミさんと言うそれはそれはもう、大事で大切で愛しくて可愛らしくて、おれの一生をを捧げてもいいと誓ってもいいと思っている何よりも大切な相手がいてだな……ッ!!!だ、だからその、悪ィんだが……!!!!」 「あら、そうだったの」 大慌てでサンジがいい訳を口走っている途中で、ローラはあっさりとそれを遮って。 そして、言った。 本日2度目の爆弾発言を。 「あんた、ナミゾウの彼氏だったのね!道理で、プロポーズしようって気にならない筈だわ〜!」 一点の曇りも無いにこやかな笑顔で、心の底から納得した様にローラが言った事に。 次の瞬間。 サンジは盛大に鼻血を吹き上げてしまっていた。 「あそこですよ!!」 「急いで急いで!!」 「ありがとう!ローラ!!サンジ君が倒れた・って聞いて……!!」 リスキー兄弟に先導されて、ナミが駆け込んで来る。 横たわったサンジの隣に屈み込んでいたローラが顔を上げる。 「ああっ、ナミゾウ!ごめんなさいね、私が側に居たのに……。止血は済んだわ。命に別状はないようよ」 「そう、良かった……」 ローラの隣にナミがへたり込む。深く、安堵の溜息を吐いた。 「もう、心配させて……ゾロだってまだ目を覚まさないのに、この上サンジ君にまで何かあったらと思ったら……」 力の抜けたナミに、ローラは優しく笑いかける。 「ふふふ、いいわねぇ〜。もう大丈夫よ。きっと疲れが溜まってたのよ」 「え?え、ええ、そうね」 にこにこと笑うローラに、ナミはふと違和感を覚えた。 気持ちを宥めようと優しくしてくれているのとは、ちょっと違う笑顔。 どちらかと言えば、心底嬉しそうな、ちょっと羨ましそうな……? 小さく首を傾げたが、ローラは気付かずにサンジへと視線を移した。 「びっくりしたわ。話の途中でいきなり鼻血出すんだもの」 「は…………?」 ぴしり・と音を立てて、ナミの周りの空気が固まった。 改めて見下ろせば、確かにサンジの両鼻には詰め物がしてあって。 そして、その目はハートになっている。 何かうわごとの様に呟いていて、動く唇から漏れる微かな声。 ナミは眉を寄せて、サンジの口元に耳を近づけた。 その耳に、確かに届いたその声は。 「…………ミさ……ん、と………けっこ………ゅんぱくの……ェディン…………ス…………」 間違い様も無く、ラブハリケーンの妄想に取り付かれていた。 「じゃあ、後は任せるわね。やっぱり恋人の看病が一番の薬でしょう?」 ローラは笑顔でそう言って立ち上がり、ナミの肩を軽く叩いた。 その衝撃で、ナミは我に返る。 「…………って、違うわよッ!!!そんなんじゃないから!!!」 慌てて叫んだが、ローラは気にせず笑うだけで。 「あらいいのよ、気を使わなくても。それにしても妬けるわねぇ。彼ったらずっと、うわ言でナミゾウの事を呼んでたのよ?愛って強いわねぇ〜」 「だから違うってば!!!サンジ君とはベツに何でもないのよッ!!!」 「ナミゾウもテレ屋さんなのね。ふふっ、かわいい」 「違うって言ってるでしょうッ?!!!私はサンジ君の事なんて、全っっ然、コレっぽっちも、只のひとっっ欠片も、本っ当の本っっっ当に、何とも思ってないからッッ!!!!」 拳を固めての力説を、サンジが聞いていればショックで倒れ直したかもしれない。 「はいはい、邪魔者は退散するわね。じゃあ、ごゆっくり〜」 けれど、それでもローラはやっぱり気に留めないで。 そして、笑って手を振って背を向けてしまう。 ナミは慌ててその背に叫んだ。 「ローラってば!!!ちゃんと聞いてよ!!!!」 「ああ、式の日取りが決まったら教えてね。駆けつける事は出来ないかもしれないけど、お祝いは必ずあげるから」 「えっ、お祝いくれるの?!ありがとう!!!…………って、違ぁーーーーーうッ!!!!」 魂の叫びも虚しく空響きして。 ローラは軽やかな足取りで去って行く。 「そうだ、剣士の彼の様子を見に行こうかしら。彼からまだ返事を貰ってなかったものね〜〜〜」 そんな呟きが遠くに聞こえたけれど、ナミはそれどころじゃなく。 衝撃と驚きが入り乱れて呆然としている中に、僅か……というか、結構な怒りが沸き起こってきて。 「……ミすわぁ〜〜〜〜ん…………れと……ージン…ォド…………」 そこに、火に油を注ぐサンジのうわ言が聞こえて来て。 更には無意識なのだろうけれど、伸びたきた指がナミの手の甲に触れて。 一瞬にして、ナミの怒りは頂点に達していた。 「勝手に倒れてなさいっ、バカッ!!!!」 容赦の欠片も無くサンジに鉄拳を喰らわすと、そのまま立ち去ってしまって。 そして後には、サンジが虚しく転がされていた。 独り倒れているサンジが発見されるのは、もう暫く後の事。 目をハートにして、倖せな妄想に取り憑かれたままであったが。 25th, AUG., 2009
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サンジごめんよーーー。一応、愛なんだコレでもw つーか、ある意味シアワセかも、これ・・・。 だって倒れたままだから、ナミの発言は聞いてないんだし! 「恋人」が「結婚」にまで広がるサンジらぶwww ナミが本心なのか照れ隠しなのかはご想像下され♪ 2009.8.25 |