アフロの気持ち






 ぽかぽかぽかぽかと好い陽気で。
 波は何時に無く穏やかで。
 風にみかんの木がそよいで。
 サニー号は順調に大海原を進んでいて。

 そんな風に長閑な昼下がり。
 芝生の甲板に何をするでも無く、ルフィとウソップはごろごろしていた。
 特に問題も無く、穏やかな航路。
 のんびりするにはうってつけの日和。


 でも。


 そんなにも平和でも、人間の体内は休み無く動き続けているものなのであるが故に。
 その新陳代謝が並外れて高い船長の口からは、最早口癖も同然の言葉が零れ出た。
 それはもう、日常の挨拶と同等の台詞が。



「あー、ハラ減ったーーーーー」



「おいおい、まだ2時過ぎだぞ」
 昼食を終えてまだ1時間程度。
 余りにも早い空腹に、流石にウソップが唖然とする。
 当の本人は、というと、気にした風も無く、笑っている。
「だって、ハラ減ったもんよ。オヤツ、まだかなー」
「3時まであと1時間はあるって」
「そっかー。んでも、ハラ減ったなーーーー」
 顔は笑顔だが、言ってる台詞は無茶苦茶で。
 どうしてあの大量のお昼を食べて僅か1時間で腹が減るのか、ウソップには理解出来なかった。
 むくりと起き上がって頭を掻く。
 ルフィは相変わらず転がったまま、キッチンの方へと首を巡らせた。
「ホント、ハラ減った。キッチン行ったら、サンジ、オヤツくれるかな」
「いや無理だ。やめとけって」
「そっか?何か出てくると思うけどな」
「……蹴り出されるのがオチだぞ」
 ウソップが頭を抱えてそう言うと、ルフィはそうかなー・と呟いて、また空を見上げた。
 波の音と船の揺れが心地良い。
 空を流れる雲がなんだか美味しそうに見えてくる。
「あの雲、喰えそうだな」
「喰えねェと思うぞ」
「骨付き肉みたいだぞ?」
「形だけだからよ」
「うーん。でも喰えそうだなーー」
「……空島でムリだっただろ?」
「あー……そっかー」
 ようやく諦めたらしく、はー・と長いため息を吐くルフィを見て。
 ウソップはなんだか神妙な顔をした。
 そのまま暫く、じっとルフィを見る。
 そしておもむろに口を開いた。
「あのよぉ、ルフィ。お前、あんまりそれ言わねェ方がいいんじゃねェか?」
「ん?それってなんだ?」
 ルフィは首だけ持ち上げてウソップを見る。
 ウソップはルフィの方を向いてあぐらをかいて。
 ちょっと困った様な顔をしていた。
 ルフィは不思議そうに首を捻る。
 その視界の中で、ウソップが何時に無く生真面目な顔で口を開く。
「だから、さ。あんまり、ハラ減った・って言ってやるなよって」
 その言葉にルフィはきょとんとした。
「へ?なんでだ?」
 目を見開いてそう訊けば、ウソップはちろりとルフィを見る。
 それからちょっとだけ視線を外して。
 ゆっくりとその理由を口にした。
 ……ちょっとだけ奇妙な気遣いを。

「そう1日に何回も騒ぐと、サンジがストレスでハゲちまうかもしれねェだろ?」

 その言葉にルフィは1瞬ぽかんと口を開いて。
 それからのほほんと笑った。
「なーんだ、そんな事かー。平気だろ、ハゲになったってサンジのメシの味は変わんねェって」
 あっけらかんと笑って返されて、ウソップは慌てて手を振る。
「いや、それはそうだけどよ。そっちじゃなくて」
 まだ続く懸念に、ルフィも怪訝な顔になる。
 むくりと起き上がると、ウソップと向かい合う様に座り込んだ。
 ウソップは頭をガリガリと掻いて、はぁ・と溜息を吐いて。
 そして、ルフィと視線を合わせた。
 不思議なぐらい、真剣な顔で。

 そうして口にした事は。


「ハゲになったせいでナミに振られたら、いくらサンジでも哀れだろ?」




 当人が聞いたら、余計なお世話だ・と蹴りかかってきそうな懸念だった。




「あっはっはっはー!なーんだ、そんな事、心配してたのかよーーー!!」
 ウソップの心配をルフィは豪快に笑い飛ばした。
 その反応に、ウソップの方が慌ててしまう。
「何言ってんだよ!おれは本気で心配してるんだぞ!!」
 そんな事を本気で心配される方がむしろ迷惑かもしれないが。
 けれどウソップはそんな事は思いつかない様で、ルフィの反応に憤慨している。
 眉を跳ね上げるウソップに、ルフィは笑って手を振った。
「大丈夫だ!そんな心配いらねェから」
「いや解んねェだろ?相手はナミだぞ」
「平気だってー!だってよ」
 怒って詰め寄ってくるウソップに、何時もの底抜けの笑顔を返して。
 そして、ルフィは言い切った。



「もしサンジがハゲたら、ナミは毎日違うカツラを被せて遊ぶからさ!!」






 あっけらかんと…………実にはた迷惑な見解を。






 唖然と顎を落として、その笑顔を見つめ返して。
 波が楽し気に笑う声を呆然と聞いて。
 ルフィがにこにこにかにかと笑うのを穴があく程眺めて。

 そして。

 ウソップも、思い切り吹き出した。
 その状況を想像してしまって。

「ぎゃははは!!!ま、毎日、違うヅラかよーーーーッ!!!」
 ルフィも可笑しそうに笑う。
「そうだぞー!!アフロとかリーゼントとかモヒカンとか……」
「七三にバーコードハゲとか!!」
「そうそう!!あと、三つ編みにおかっぱにー!!!」
「ドレッドもイケるなー!!!角刈りも必要か!!!」
「あっはっはっは!!じゃあ、チョンマゲは?!!!」
「そりゃあ必需品だろ!!!いやぁ、失敗した!!あのキツネのトコのアフロ、貰ってくれば良かったなー!!!」
「ホントだ!!!じゃあ、これからおれ達で揃えとくか!!!」
「そうだな!!いつかサンジがハゲた時のために!!!」
「そうそう、サンジのために準備しとかねェと!!!!」
「……ほーぉ、おれのために、ね」
「おう、そうだぞサンジ!!!……って、え?」
「へ?」
 不意に頭上から響いた声に。
 2人は同時に固まった。

 誰のものか、ちょっと想像したくない声に。

 笑ったまま固まって、お互いに顔を見合わせる。
 その肩に、ぽん・と手が置かれた。
 妙に強張った手が。
 視線を合わせたまま、振り返る事が出来ない。
 2人の顔を冷や汗が伝う。

 それぞれの肩に置かれた手に、ゆっくりと力が籠った。

 ごくり・と同時に息を飲む。
 そして肩に置かれた手に、恐る恐る視線を向ける。
 それから徐々にその視線で辿って行く。
 肩の上の手から、黒いスーツに包まれた腕へ。
 その先の肩に。
 そして、…………顔に。


 そこには。



 予想通り、銜え煙草で額に青筋を立てたサンジの顔があった。



「…………ずいぶんと楽しそうな相談だったじゃねェかよ、オイ?」
 地を這う声に、無意識に身体が逃げる。
 が、がっちりと肩を掴まれて、途中で止まってしまう。
 2人の表情が、完全に固まる。
 サンジの口元が引き攣った。
「まったくよぉ。テメェらと来た日にゃあ…………」
 肩を掴む両手が小刻みに震え出して。
 ルフィとウソップは。
 ぎこちなく線対称の動きで、顔を見合わせた。
 お互いに冷や汗を流して固まった笑顔のままで。
「……人の事をあれこれと心配してくれたようだけどなぁ」
 一瞬の、間。
 2人が息を飲む。
 サンジの手にもう1度力が籠って。


 そして。


「誰がハゲじゃ、誰がーーーーッッ!!!」
「ぎゃーーーーーッ!!!!お、落ち着け、サンジーーーーッ!!!!」
「ま、待て!!!!これには深いワケが…!!!!」
 本気の蹴りを繰り出して来たサンジから、ルフィとウソップは慌てて飛び退いたが。
 そんな程度で逃れられるワケも無く。
「うるせェ!!!!黙って聞いてりゃあ、人の事をオモチャにしやがって!!!!」
「だだ、だから、違うって!!!」
「そうだぞ、おれ達は本気でサンジがハゲた時の心配をだなぁッ!!!!」
「それが余計なお世話だって言うんだーーーー!!!!」










 結局。




 怒り心頭のサンジから、逃れる事は出来なくて。

 ウソップは3日間皿洗いの手伝いを命じられて。
 ルフィに至っては、簀巻きにされた挙げ句、マストから逆さ吊りにされていたという。




 まさに、小さな親切大きなお世話。
 行動する前によく考える事も大事かと。






6th, AUG., 2008





ごめん、サンジ君!
これも愛だ、許せwww

しかし、あの34巻41ページの顔のままで、台詞だけが
『アフロをくれ!!!』
になってる所を想像しちゃったら、笑えてーー!!
もちろん、頭はアフロのままで!
ギャグだ!!ギャグ以外の何物でもない!!
でも、それだと麦わら被れないよな・・・。
そうしたら、麦わらのルフィ改め、アフロのルフィ誕生か!!
・・・・・・・いやだ、そんな海賊王orz



2008.8.6



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