航海日和 場面の6






 穏やかな波。緩やかな風。
 照りつける日差しは呑気でのんびりで。
 空の上で雲はぼんやりと寛いで。
 今日も海は穏やかだった。


 ………………筈だった。





「なっかーまさがして、きったのうみぃ〜〜〜!」



 突如として、何時も通り突拍子も無いルフィの歌が大音量で鳴り響くまでは。



 とは言え。

 思い切りずっこけた風も、空の上から転げ落ちそうになった雲も。
 リズムを乱して不況和音になった波達も。
 これもある意味、何時も通りの光景なので。
 次の瞬間には立ち直って、またのんびりと寛ぎ始めた。

 それは、この海賊王予定の現時点で唯一の仲間であるゾロも同じだったが。

 船縁にもたれてうとうとしていた体勢から思い切りひっくり返りかけたが、そこは何とか持ち堪えて。
 唖然としたまま、舳先のルフィを見る。
 何時も通り細い舳先の上であぐらをかいて。
 気持ち良さそうに身体を揺らして。
 大きな声で呑気に歌っている。
 ……それはもう、意味不明な歌を。

 ゾロは眉間を押さえて、深く溜息を吐いた。
 いつもの事だ・と自分に言い聞かせながら。


 その間にもルフィの歌は続いている。


「きぃたのう〜みは、ゆーきまーみれぇ〜〜〜」

 いや、ノースブルーだからって全域が雪ばっかりじゃあねェんだが。
 心の中でそうツッコんではみるが。
 声に出していないので、当然ルフィに届きはせず。
 調子っぱずれの歌は、まだ続く。

「ゆーきでモッコモーコ、ゆっきおーとこーーー」

「なんだそりゃ」
 流石に今度は口を吐いて出たが、自分の歌に夢中なルフィが気付く事は無く。
 そのままルフィは高らかに歌い上げた。
 呑気で能天気で、はっきり言って意味不明な歌を。


「きょうからなっかまーだ、めーでてーェなぁーーーッ!!」


「んなワケあるかぁっ!!!」




 思わずゾロが怒鳴ってしまった事は、言うまでも無い。




 が、ルフィがそれで動じるワケもなく。

「なんだよゾロー。仲間増えんの、嬉しくねェのか?」
「そうじゃねェだろ!!!そういうワケの解らん仲間を増やすんじゃねェ!!!」
 不満げに口を尖らせるルフィに、ゾロが尚も怒鳴る。
 どちらが正論か・なんて事は、本当なら論じるまでもないのだが。
 まぁそもそも、本当に雪男が仲間になったワケでもないし。
「なんでだ?いいじゃねェか、雪男!!冷たそうだぞー!!!」
「冷たそうなのが何でいいんだよ!!!」
「あっつい時に涼しくていいんだ!!」
「雪男は暑い所には住めねェだろうがッ!!!」
 そもそも、雪男が実在するかも解らないのだが。
 ……何処かには居そうな気もするが。
 そういう根本的な事は綺麗さっぱり忘れられているようだ。
 というか、ゾロも雪男の存在を信じているようだし。
 ゾロの一言に、ルフィはぽん・と手を打った。
「あ・そっか。アイツら暑いと融けるもんなー」
「融けはしねェだろ!!……って、待て、融けるのか?」
 条件反射的に怒鳴ってから、ゾロはふと眉を寄せた。
 その疑問に、ルフィは満面の笑顔で頷いた。
「おう、そうだぞー。アイツら暑いのダメだかんな。融けちまうんだ」
「そう……だったか?いや融けはしなかったような……」
「何言ってんだよ、ゾロ。雪男は融けるんだぞ?ゆきだるさんだって融けるんだからなー」
「………なんか違う気がする」
「違わねェって。ゾロは心配性だなーーー」
「…………それはもっと違うだろ」
 顎に拳を当てて考え込むゾロに、ルフィは相変わらずの笑顔を向けて。


「じゃあ、雪男用にでっけー冷蔵庫作ってやらねェとな!!」


 実に高らかに言い放った。
 相変わらず、突拍子も無い発言を。

「仲間を冷蔵庫に入れんじゃねェよ!!!」

 当然と言えば当然のツッコミがゾロから返った。
 が、やっぱりルフィは動じる事も無く。
「だって、冷蔵庫に入れれば融けねェだろ?」
 歯を見せて笑いながら、あっさりと答える。
 ……どこか間違ってる様な気遣いを。
 今度こそ流石のゾロも、がっくりと脱力してしまった。
 そのまま船縁をずるずると滑り落ちる。
 ルフィは相変わらず舳先の上で笑っている。
「あー、早く仲間増えねェかなー。楽しみだなー。いろんなヤツがいる方がいいよなーーー」
「…………普通でいいだろが」
 能天気な発言に、呻く様に返すが。
 ルフィは目を輝かせて指折り数え始める。
「音楽家だろー?噺家だろー?手品師とか曲芸師もいいよなー。あー、コックもいるといいなー。美味いもん喰えるし。あと猛獣使いとか軽業師とか講談師とか……」
「……海上サーカスでも始める気か」
「サーカス!!それだ、ゾロ!!よし、サーカスを仲間にしよう!!!」
 嫌味のつもりだった言葉に逆に嬉しそうに飛びつかれて、ゾロは本気で反応に詰まってしまい。
 完全にうきうきしてしまっているルフィに、思い切り腹の底から溜息を吐いた。
 眉間を押さえつつ呟く。
「……ったく。どれだけ仲間を増やす気なんだよ」
「え?そりゃあ……」
 ゾロの呟きに、ルフィは一瞬思案顔になり。
 そして、拳を突き上げて答えた。

 実に楽しそうに……脈絡の無い答えを。






「ひゃくごじゅういち!!!!」






「そんなに増やしてどうすんだ!!!ってか、どっから出て来たんだよ、その中途半端な人数は!!!!」
「なんとなくだ!!!」
「何となくじゃねェよ!!!ちったぁ考えろ、テメェは!!!!」
「それはめんどくさいからパスだ!!!」
「威張って言う事かッ!!!!」













 …………まぁ、そんな感じで。


 世界は今日も呑気で長閑で平和だった……イーストブルーの極1カ所を除いて。











27th, JUN, 2009





ルフィが歌っている歌は、ヨ○バシカメラのメロディで歌えますw

「ひゃくごじゅういち」は初代ポケモンの数だったり。
しかし、その人数はサニー号に乗れないから止めときなさいね。
仲間はモンスターボールには入らないぞーw

最近、ちょっと懐かしくなって聴いてたもんで、浮かんだネタ。
「ひゃくごじゅういち」の歌詞が、微妙にハマるんだよなー。
まぁ「仲間探しの旅」って所は同じだし。
って事は、最初に仲間になったゾロは……。
…………………。
……?
ッ!!!!
いッ、言い訳不可能につき、逃げますッ!!!!



2009.6.27



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