「ゴムゴムの実?」 「うんそうだ。それを食べたんだ」 「で、ゴム人間……になった、と?」 「そうそう。ホラ」 そう言ってルフィは自分の口端を掴むと左右に大きく引っ張ってみせた。 びよん・とゴム特有の音がして、普通ならありえない長さに頬が伸びる。 そのまま楽しそうに笑いながら自分の顔を引っ張るルフィを、ゾロは呆れるでも無く面白がるでもなくじっと見ていたが。 軽く首を傾げてゆっくりと口を開いた。 「……で、なんだってそんな実を喰っちまったんだ?」 穏やかな波。緩やかな風。 照りつける日差しは強いが暖かい。 海は凪。小さな波が船縁を叩く。 流れる雲までのんびりとしている。 小舟の上で向かい合う様に胡座をかいて。 とても楽しげなルフィと。 淡々と、でも興味深そうなゾロと。 天候そのままに間延びした会話が続いていた。 「デザートに喰ったんだ」 「……いやそうじゃなくてよ」 ルフィが自分の顔から手を離して、歯を見せて笑って答える。頬はばちん・とやっぱりゴムの音をたてて元に戻った。 要求していない答えにゾロは顔をしかめて、問い直す。 「何でそんな実を喰うようなハメになったんだ」 「へ?別に理由なんてないぞ?」 「……誰かに喰わされたんじゃねェのか?」 「ああ、違う」 「…………じゃあ、なんでだよ」 「なんでって、マキノにメシ喰わせてもらった時にさ」 マキノって誰だ・という普通のツッコミはゾロからはなかった。 「デザートになんかないかと思って、箱、開けたら入ってたんだ。だから喰った」 「人のじゃねェかよ!」 「んー?でも、箱に入ってたんだから喰ってもいいだろ?」 「……普通は箱に入ってるモンは喰わねぇだろ」 そうか?とルフィが首を捻る。 ゾロは諦めたように溜息を吐いた。 「…………ま、とにかく、そのマキノってヤツの実を勝手に喰って、能力者になっちまったんだな」 「違うぞ」 「は?!」 「ゴムゴムの実はシャンクス達が持ってたんだ。敵船から奪った・って言ってた」 「……ちょっと待て。人物関係図が良く解らんくなってきた」 「そうか?あのな、シャンクスは海賊で、おれが子供の頃に1年ぐらい村にいて、でマキノはよく宝払いでメシ喰わせてくれてて」 「いやいい。どうでも。…………とりあえず、他人の持ってた悪魔の実を勝手に喰って、能力者になった。それで間違いないな」 「……なんか、おれが納得できねェぞ、それ」 「お前が出来なくてもおれが出来ればそれでいい」 「そうか?ゾロってワガママだな」 「…………てめぇに言われたくねェよ」 不満げに口を尖らせるルフィと。 むっとしたように眉間に皺を寄せるゾロと。 ちょっとだけ睨み合って。 でも直ぐに硬質の空気は融けて消えた。 ゾロが軽く息を吐いて、ルフィの手首の皮膚を掴む。 そのまま引っ張ると手首の皮膚が面白い様に伸びた。 手を離すと元に戻る。痣すら残っていない。 「どのぐらい伸びるんだ?」 聞かれてルフィは首を傾げた。ゾロはもう1度手首の皮膚を引っ張りながら言葉を続ける。 「海兵を吹っ飛ばした時は、足が4〜5メートルぐらいは伸びてたよな」 「そんなもんかな。本気を出せばもっと伸びるぞ」 「腕も伸びてたよな」 「おう。腕は大体、72ゴムゴムぐらい伸びるんだ」 「………………そうか」 この場にこの後で仲間になる航海士がいれば、何処の土地の単位だ・とツッコんでくれただろうが、残念な事に彼女はまだいなかった。 「弾丸は効かねぇんだよな」 「ああ。でもあれ、ビックリするから嫌いだ」 「そういう問題じゃねェだろ。……大砲はどうなんだ?」 「んー?それは試した事がねェからなぁ。わかんねぇや」 「……まぁ、さすがに吹っ飛ばされるかな。ダメージは受けねェにしても」 「いや、弾く。きっと弾くぞ、おれは」 「無理すんな。いくらなんでも大砲には吹っ飛ばされるだろうが」 「いーや、吹っ飛ばされねぇ。今、決めた。おれは大砲を弾くぞ。絶対に弾く」 「…………頑張ってくれ。で、打撃はどうなんだ」 「それは効かねェ」 ルフィが歯を見せて笑う。自身満々の笑顔だ。 「効かねェのか」 「おう!平気だ!!」 「へェ」 得意げに笑うルフィに、ゾロが軽く目を見開く。 そして拳を握って。 次の瞬間、いきなりルフィの視界が真っ暗になった。 驚く間もなく後頭部と背中に走る衝撃。平行感覚の消失。 響く音に、自分が仰向けにぶっ倒れたのだと悟った。 ……それも、ゾロに顔面を強打されて。 「……ブはッッ!!!!」 1拍の後、ゴムの弾性でヘコんだ顔が元に戻る。 視界に広がる一面の青空。 それを呆然と見てから。 「何すんだッ、いきなり!!!!」 思い切り跳ね起き、ゾロを怒鳴りつけた。 が、当のゾロは、驚いた様に目を見開いただけで。 「へェ。本当に効かねェんだな」 「だからそう言っただろー!びっくりしたじゃねェか!!」 「普通、びっくりしたじゃ済まねェだろ。……どうした?」 不穏な言葉をあっさりと口にして、ゾロがふと首を傾ぐ。 ルフィが口をへの字に結んで、妙にじっとりと睨付けてくる。 何事かと視線で促せば、一層、口を尖らせてきて。 突然の不機嫌の理由が思いつかず、ゾロも口を閉ざす。 潮騒が程よく歌を歌い切った頃、ようやくルフィが口を開いた。 「…………ゾロ、殴った」 「?ああ。実験にな」 「………………殴っていいのかよ」 「は?」 何を言われたのか解らずにゾロが眉を寄せる。 ルフィはゾロを見据えたまま、むぅ・と唸って。 それからゆっくりと言葉を続けた。 「……ゾロ、剣士なのに殴ったぞ」 その言葉にゾロが顎を落とす。 そのままゆっくりと天を仰ぎ見て。 暫くの間、流れる雲に視線を向けていたが。 仰ぎ見た時と同じぐらいの動きで、ルフィの方へと向き直った。 そして、静かに口にした一言。 「斬った方が良かったか?」 「それは痛いからいやだ!!!!」 ルフィが大慌てで首を振る。 「だから、そう言う問題かよ。……ってか、刃物は効くんだな」 「おう!刃物は弾けねェ!!」 「威張っていう事でもねェだろ」 「あと、尖ったモンも刺さるぞ」 「なるほど。万能ってワケでもねェのか」 「おう。おれの弱点だ!」 「…………だから威張るなっての」 穏やかな波。緩やかな風。 照りつける日差しは強いが暖かい。 船縁に戯れる波と。大空を散歩する雲と一緒に。 未来の海賊王と大剣豪の会話は、どこまでも呑気に続いていたーーーーーー。 30th, APR., 2007
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ルフィの腕が72ゴムゴム伸びる・てのは公式です(え) あーでも、そろそろ100ゴムゴム伸びる様になったかなー。 本当にこの2人は放っておけば、 何処までも何時までも延々と飽きる事無く只ひたすらに こういったまるで中身のない会話を続けてるんじゃないか・と。 そう思うんで。 そうでなかったら、ずっと寝てるか。 こんな2人が、麦わら海賊団最強。 将来的には世界最強。 ………………未来は大丈夫か。 最初の頃、ルフィがよく自分の顔を引っ張って伸ばしてるのが好きだった。 弾丸弾いて「効かーーん!」って言ってるのも好きだった。 最近、伸びても驚く人が少ないのがちとつまらん。 まぁ、能力者だらけだからなー。見慣れてるんだろけど。 2007.4.30 |