「ゾロー、ただいまーーーー!」 「…………遅かったな」 玄関先から響いたルフィの何時も通りに元気な声に。 答えるゾロの声は、なんだか不機嫌5割増し。 それにはちゃんと理由があるのだけれど。 「おう、ウソップとメシ喰って来た!!」 「はぁ?!何だって?!!」 ルフィの返事に、更に声に剣が増す。 眉を跳ね上げ、一気に不機嫌そのものの顔になって。 「テメェ、自分がメシ当番だって忘れてやがったのか?!」 そう、不機嫌の理由はそう言う事。 今日の夕飯当番のルフィが中々帰って来なかったから。 先に食べてしまうか、もうちょっと待った方が良いのか悩んでる内に、時刻は既に8時になろうとしていた。 空腹に拍車をかける返答に、ゾロの機嫌は一気に降下する。 が、ルフィがそんな事を気にするワケも無く。 仏頂面のゾロに、満面の笑顔で手にしていた袋を差し出した。 「んにゃ、覚えてるぞー!ホラ、ゾロの分!!お持ち帰りして来た!!」 そう言って目の前に突き出された某有名牛丼チェーン店の袋に、ゾロは一瞬呆気にとられて。 それから、少しだけホッとしながら苦笑した。 「……そりゃあ、どーも。でもお前な、連絡ぐらい寄越せよな」 「あ、待たせてたか?ごめんな、こんなに時間かかると思わなかったからよ。あとこれ、コンビニでみそ汁と唐揚げとコロッケも買ってきた」 「ビールはねェのか?」 「もう飲んでるだろ!」 ゾロの手元を見て、思わずツッコんでしまう。 その手には缶ビールが握られているし、テーブルの上には空き缶が3つ転がっているのだ。 ルフィの返事にゾロは声を立てて笑った。 遅くなってもちゃんと食べる物が出て来たから、機嫌が直ったようだ。 こういう所、ゾロも単純である。 袋からテーブルに牛丼を出す。 ルフィが隣にコロッケと唐揚げを並べて、カップみそ汁にお湯を入れてくれて。 並んだ夕飯に、いただきます・と手を合わせてからゾロは食べ始めた。 向かいに座ったルフィが、食べて来た筈なのにせんべいの袋を開けている。 それには流石に呆れてしまった。 つい最近の騒動を、もう忘れたのだろうか。 「またハラ壊すぞ?」 「へ?おれハラ壊した事なんてねェぞ?」 無駄とは思いつつも忠告すると、不思議そうな顔が応える。 どうやら覚えていないのではなく、自覚が無いだけのようだ。 けれどまぁ、また『あの薬』で治るだろうからいいか・と考え直す。 そう思って、別な疑問を口に乗せた。 「ウソップ、どうかしたのか?」 仲は良いけれど、夕飯当番を後回しにしてまで食事に行くというのは、珍しい。 ただ単にばったり会って、じゃあ何か食べよう・という話になったのなら、ゾロに一言あるだろうし。 そんな余裕も無く食べに行ったのなら、何かあったのかと思ってしまう。 「なんか、バイトですっげー怒られた・って落ち込んでたからさー。落ち込んでる時って、メシ喰えば元気になるじゃん?だから一緒に喰いに行ったんだ」 「なるほどね……。もう大丈夫なのか?」 「おう!帰りには元気だったぞ!!」 「そりゃ良かった」 嬉しそうに笑うルフィに、ゾロも笑みが浮かぶ。 そしてふと、ルフィがじっと手元を見ている事に気が付いた。 苦笑して唐揚げを1つ摘むとルフィの方へと差し出す。 ルフィはすかさずその箸に喰らい付いた。 「うめェ!!」 嬉しそうにそう言って飲込むと、今度は大きく口を開けて顔を寄せる。 ゾロは一瞬眉を顰めて、今度は牛丼のタマネギをその口に放り込んだ。 途端にルフィがしかめっ面になる。 「タマネギじゃなくて、肉!!!」 飲込みながらそう請求するが、ゾロは素知らぬ顔。 「うるせ。テメーは散々喰って来たんだろうが」 そう言って、後はやらん・とドンブリを抱え込んでしまう。 「牛丼は4杯喰って来たけど、唐揚げは喰ってねェぞ!!!」 「それだけ喰って、なんでまだ入るんだよ!!!」 「唐揚げはベツバラだ!!!」 「そんな別腹、聞いた事ねェぞ!!!」 取られてたまるか・と自分の分を抱え込むゾロと、意地でも喰ってやる・と手を伸ばすルフィと。 遅めの夕食の時間は、賑やかに過ぎて行った。 と、ここまでなら、まだ何時もの風景。 夕食が終わって1時間も経たない頃、ゾロの携帯が鳴った。 表示された名前はウソップのもの。 だから、普通に電話を取ったのだが。 「ゾロォ、良かった〜〜〜。すまねェ、頼みがあるんだけどよぉ〜〜〜〜〜」 電話越しのウソップの声は、物凄く苦し気で。 ゾロは焦って、携帯を握り直した。 「どうした、ウソップ?!!何かあったのか?!!」 慌てて尋ねると、返事と共に微かな呻き声。 「ううう、いや、あのよ……」 「何があった?!今、どこだ!!」 さっきルフィから聞いたばかりの話もあるから、尚の事、不安が過る。 直ぐに出れる様にと鍵を手に取って。 「いや、部屋にいるけどよぉ……、なぁ、ゾロ、ルフィから聞いたんだけどよ、お前さぁ」 「だからどうしたんだよ!」 呻きながら、どうにも歯切れの悪いウソップの言葉に、不安がつのったが。 「どんなハライタにも効くすっげー薬持ってるって、ホントか?」 「は?」 続いた言葉に、一瞬、間違いなく、思考が停止した。 「く、すり?」 半ば呆然と聞き返すと、携帯の向こうから呻きながらの返事。 「お、おぅ、前にルフィがお前にもらった薬でハラが治ったって言ってたからよぉ〜。その薬、分けてもらえねェかなあ・と思って」 「……ハラが痛いのか?」 「いや、痛ェって言うか……なんつーのか、うげー・っていうか、ぐげー・って言うか…………」 何だか妙に聞き覚えのある症状。 嫌な予感を感じつつも、念の為にと口を開く。 「…………ウソップ、確認してェんだが」 「お…ぅ、なんだ…?」 一瞬、間を置いて。 「夕飯、どれだけ喰ったんだ?」 そう、ルフィと一緒に食べたのなら、あの勢いに呑まれてつい食べ過ぎたという可能性は、ある。 だから、そう思って、念の為に訊いてみたのだが。 「ええーーと…………よく覚えてねェ……」 「覚えてねェほど喰ったのかよ!!!」 あり得ない返答に思わず怒鳴ってしまう。 ウソップは携帯の向こうで、情けない声を上げた。 「だ、だってよぉ、ルフィが次々と注文して、おれのドンブリにもなんか乗せまくるしよぉーーー。何をどれだけ喰ったんだか、最後には解らなくなっちまって」 そう言ってまたウソップは呻き始める。 苦し気な呻き声のはずなのに、何だかもう、まともに心配する気力が失せてしまった。 「………………市販の胃腸薬、飲め。その方が効く」 「いや、もう飲んだんだけどよ、イマイチ効かねェんだ。で、お前の薬の事思い出してさ」 「…………いや、アレは、な」 そもそも薬じゃないのだが。 何と言ったら良いのか、ゾロは一瞬考え込んで。 「……相手によって、効いたり効かなかったりするから」 医療関係者が聞いたら凄まじいツッコミが入りそうないい訳をしてみたのだけれど。 「じゃあ、おれも効くかもしれねェよなー?!ぅ、ぅげげ、悪ィ、マジで頼む。1個でいいから分けてくんねェか〜〜〜?」 更なる哀願に、再度、深い溜息が漏れていた。 ……まぁ、既に本物の胃腸薬を飲んでると言うのなら。 気休め程度に飲んでおいても構わないだろう。 ビタミン剤は、合せて飲んでも大丈夫なハズだし。 そう思い直して。 「……解った。今から行く。待ってろ」 「おおお!ありがとうなー、ゾロォ!!!」 嬉しそうなホッとしたようなウソップの声に、こっそりともう1度溜息を吐いた。 そして、次の朝。 「おっはよーーーー、ゾロ君〜〜〜!!!」 「お?おお、大丈夫か?ウソップ」 大学の廊下で、実に威勢よく声を掛けて来たウソップに、ゾロは目を見張った。 昨日あれから薬を届けに行った時の苦し気な顔とは、エラい差である。 満面の笑顔で、ウソップはゾロの肩をバシバシと叩く。 「おぅ、おかげさまですっかり治ったぞ!!いっやー、ホントにスゲーな、あの薬!!!」 「…………マジかよ」 むしろ、唖然としてしまうのはゾロの方。 何しろアレは、本当は薬ではなく、ビタミン剤なのだから。 けれどウソップは、本当に一点の曇りも無い全開の笑顔を見せていて。 だから、本当に治ったのだと、改めて確認しなくても解るぐらいで。 まだ半ば呆然としているゾロに、ウソップは一際強く肩を叩いた。 「お前はおれの恩人だよ!!本当に助かった!お礼に、今日の昼メシおごってやるぜ!!!」 「い、いやまぁ、治ったんなら構わねェよ」 「いいって、いいって!遠慮すんな!!じゃあ、後でな!!」 そう言って笑うと、ウソップは手を振って行ってしまった。 その背を暫く硬直したまま見送って。 そのまま呆然と、ゾロは呟いた。 実に、身も蓋もない一言を。 「………………バカには効くのか?」 その真相は解らないけど。 取りあえず、効いたのだからそれで良い……のかもしれない。 24th, AUG., 2009
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ゾロもハライタの時、飲んでみるといいよwww ま、ウソップも単なる代謝かと思うし。 てか、先に飲んでた正しい薬が効いただけかもしれないしw 某大手牛丼屋さんは、実は行った事が無いので、 どんなメニューがあるのか解らん。 1度ぐらいは行ってみたいかな〜。 ……かなー? あ・ゾロが飲んでるのは正確には第3のビールかと思われw 2009.8.24 |