『 もし、明日世界が滅ぶとしたら、あなたはどうしますか? 』 余りにも唐突な問いだったから、唖然と口を開けて目の前の相手を見据えてしまった。 問いを発した相手は、解ってるのか解っていないのか、何時もと変わらない顔で。 だから余計にまじまじとその顔を見てしまう。 言葉が出て来るまでには、結構な時間がかかった。 「どうって……どうよ?」 「うん。どうする?ゾロ」 「どうするってなぁ……」 頭をがりがりと書いて眉を寄せる。 ルフィは目の前で首を傾げて。 エースが置いていったコタツに入って、みかんとスナック菓子とつまみの珍味を山のように積んで。 テレビのバラエティ番組をBGMに向かい合わせに座って、他愛の無い話をしていた気がするが。 何のきっかけでこんな質問が出て来たのだろうか。 ……そのきっかけは思い出せないが、期待に満ちた顔には応えておいた方がいいのだろう。恐らく。 「…………そうだな。取りあえず」 「うん?」 切り出すと笑顔がずい・と身を乗り出して来る。 ゾロはうん・と一つ頷いて続けた。 「有り金持って、一番高くて旨い酒をありったけ買って来るか」 「えーーーッ?!!ちょっとつまんねェぞ、それ」 間髪置かずルフィが不満の声を上げ、ゾロはむっとした顔になる。 「じゃあ、そういうてめェはどうなんだよ」 「そりゃあ!!…………ぇえっと」 眼飛ばしつつそう切り返され、ルフィは勢いよく答えようとして、言葉に詰まった。 そのまま明後日の方を見上げ。 そして腕組みして首を捻って。 「………………肉、山盛り?」 「……そら見ろ」 ある意味、予想に違わない答えに、ゾロは深く溜息を吐く。 ルフィはちょっと困ったように笑いながら、頭を掻いて。 それから不意に手を打った。 「ああ!でも、金は持ってかなくてもいいと思うぞ!」 「?何でだよ?」 「だってさ!今日で世界が滅ぶってのに、商売するヤツなんていねェんじゃねェか?」 「……それもそうか」 思わず納得してゾロは頷いた。 ルフィは5倍増の笑顔になって、あらぬ方を見る。 「じゃあ、肉、喰い放題だなーーー。いーなー。どれだけ喰ってもタダだもんなーーー」 世界が滅ぶと言う日にやる事がそれでいいのか・と思わなくもないが。 ゾロだって似た様なものだろう。 コタツに頬杖を付くと、口の片端を上げた。 「新潟辺りに行きゃあ、いい酒蔵があるよな」 その呟きにルフィがからからと笑う。 「きっとゾロと同じ考えのおっさんが一杯いるぞー」 「うるせ。いいじゃねェかよ、酒盛りできるしよ」 コタツ越しに能天気な笑顔を引っ叩いて。 それからふとゾロは真面目な顔になった。 「お前……いいのか?エースに会いにいかなくても」 その問いにルフィはきょとんと目を見張った。 ゾロがエースに会ったのは、エースが連休を利用して遊びに来た時の1度きりだ。 それでも、ルフィとエースが本当に仲の良い兄弟だと言う事は良く解った。 そのエースに、世界が滅ぶんなら会いに行きたいんじゃないんだろうか・と思ったのだが。 ルフィはきょとんとしてから、あっけらかんと笑った。 「ベツに電話でいいって。わざわざ会いに行かなくってもさー。エースも多分、2人っきりで過ごしたいヤツがいるんじゃねェの?」 「あ…そうなのか?」 「おう、きっとな。そんな感じしたしよ」 でもコイツの感は当てにならねェよな・とゾロは胸中で呟く。色事に関しては特にそうだ。 そんな事を思っていると、今度はルフィの方が身を乗り出して来た。 「そういうゾロは?親とか会いに行かねェのか?」 「ウチの親?……行かねェ方が無難だろ」 「へ?なんで?」 意外な答えにルフィは目を丸くした。 ゾロが両親を気にかけているのは良く知っている。年の離れた親子だから、何かと心配らしい。 電話をしている時の表情から、ゾロが両親を大切にしている事は簡単に伺えた。 親からもとても大切にされている事も、傍から見ていても良く解るというのに。 驚くルフィにゾロは片手で顔を覆った。 その顔がほんのりと赤い。 「あー……ウチの親な、息子のおれから見ても恥ずかしくなるぐらい熱愛なんだよ。だから、最後の日ならおれがいない方が却って親孝行だろ」 「あ」 「おれが産まれるまで10年以上かかってるから、何時までも新婚気分だったんじゃねェの?…ったく、何やってたんだか、何もやってなかったんだか……」 「あー……」 その言い回しに思わずルフィも赤面して。 それから改めて笑い出した。 ゾロが顔を上げる。 「おれらさー。世界最後の日でも肉と酒しか考えてねェなー」 その言葉にゾロも笑った。 「だな。……まァ、らしくていいんじゃねェか?」 「それもそうかな。でも、サンジはナミと思い出作りだろうし、ウソップもカヤと一緒だろ?」 「そう言われちまうと、何だか情けねェな」 顔を見合わせて一頻り笑い合うが。 かと言って、無理矢理にでも会いたい相手も居ないし。 色気も何も無い方が、自分達らしいのかもしれない。 「でもさー。せめて行きたいとこぐらいねェ?」 笑いながらルフィが言って、ゾロも苦笑する。 「飛行機も電車も動かねェんじゃなぁ。徒歩か精々チャリだろ?すっげェ近場限定じゃねェか」 「うっわー、つまんねェー。じゃあ、やりたい事とかは?」 「やりたい事っつっても、1日しかねェんじゃ…………あ」 不意にゾロが言葉を区切った。 そのまま真顔になって、動きを止めてしまう。 唐突な反応に、ルフィも驚いてしまった。 何かを思いついたかのように黙り込んだゾロを、怪訝そうに覗き込む。 「ゾロ?」 「あ……あぁ、悪ィ。だが……そうか、1日しかねェんなら」 「うん?」 首を傾げると、ゾロが顔を上げた。 真直ぐに前を見据える瞳は、今までと打って変わって真面目な物で。 そのまま小さく頷いて言った。 「学校、行って来ねェと」 ルフィにとって、全くの予想外の言葉を。 「ゾ、ロォ?授業なんてやってねェだろ?」 意外すぎて普通のリアクションしか返せなかったが。 それでもゾロは真顔で顎に手を当てる。 「ああ、授業じゃなくてよ。……やりかけの課題があるんだ。あれ、仕上げてェから」 「課題?!」 更に予想外で、唖然としてしまったが。 ゾロは本気で考え込んでいる。 「……1日、か。時間ねェな……鋳物は諦めて、造形と溶接で…………まてよ、あそこのパーツは造らねェと……いやでも時間が……仕方ねェ、何か代わりになりそうなモンは…………」 ブツブツと考え込むゾロを口を開けたまま覗き込んでいたが。 「えーと、ゾロ?課題作っても、先生見てくれねェと思うぞ?」 そもそも評価してもらう意味すらないと思うのだけれども。 そんなルフィの危惧を気にも掛けずに、ゾロは考え込んだまま。 「あァ?いや、いいんだ評価はどうでも。作りかけってのが気に入らねェだけだからよ……いやだめだ、間に合わねェ。くそ、妥協はしたくねェのに……やっぱり」 腕組みをして本格的に考えに浸ってしまったゾロを、ルフィは唖然として覗き込んでいたが。 ややあって、その顔に笑みが浮かんだ。 すごく納得した様な笑みが。 ゾロは、評価してもらうためではなく自分が納得するために、最後の日まで制作に打込もうとしているのだ・と解ったから。 それはとても、ゾロらしい選択だと納得したから。 当り前のようにルフィは言っていた。 「じゃあ、おれも一緒に行こう!」 何時ものように、全開の笑顔で。 「は?い、いや大学構内は、部外者立入り禁止だぞ?」 今度はゾロが驚く番だった。 思わず返した極在り来たりの言葉には、底抜けの笑顔が答える。 「最後の日にそんな事気にしてるヤツなんていねェよ。うん、そうだ。ゾロが制作してるトコ、まだ見せてもらったことねェもんなー。世界が無くなる前に見とかねェと!」 楽しそうにそう言われて、狼狽してしまう。 「なっ、だ、だから、見る程のモンじゃねェって言ってるだろ!!危ねェし、火傷すっかもしれねェし」 「じゃあちょっと離れて見てる。あ!そうだゾロ、米炊いてくれよ!おれ肉焼いて、肉弁当作って持ってくからー!」 「いや米ぐらい炊くけど、そうじゃなくて」 「よっしゃー、決まりだなー!!ししし、楽しみだなァ。ゾロの制作現場見るの、初めてだもんな!!」 「……おれのは見せれる様なモンじゃねェんだっつーの」 「そうか?鉄、焼いたり曲げたりくっつけたりすんだろ?面白そうじゃねェか」 どう言っても目の前の笑顔が崩れる事は無いと悟って、ゾロは溜息を吐いた。 面白いとか面白くないとかそれ以前に、他人に見せれる様な物ではないと思うのだが。 そもそも、鉄の溶接とかもするのだから、危険な事は間違いないのだし。 そう思って苦悩していると、ルフィは笑顔のまま身を乗り出して来た。 「ゾロもその方が嬉しいだろー?」 「……何でだよ」 眉間を押さえながら聞き返すと、ルフィは笑顔のままで言った。 「だって、ゾロの作品が出来たらおれが観客になれるじゃねェか」 思いがけない言葉に、弾かれたように顔を上げた。 ルフィが歯を見せて笑う。 「ウソップがさ、前に『アーティストは観客の拍手のためにガンバるんだ』・って言ってたからさー」 にこにこと。 それはもう、曇りの欠片も無い笑顔で。 「ゾロも、作品が出来上がったら見てくれる人がいた方が嬉しいだろ?」 繰り出される言葉は、紛れも無い本心。 「だから、おれがゾロの観客になるからな!」 そう言って、またルフィは笑った。 余りにも迷いの無い笑顔に、ゾロの方が困惑した。 「お……前、それでいいのか?」 「ん?何がだ?」 「いやだからよ……」 目を輝かせて聞き返されると、どうにも言葉に詰まるが。 困ったように乱暴に頭を掻きながら、ゾロは問い直す。 「世界最後の日だってのに、おれの制作なんかに付き合ってていいのかよ?」 そう尋ねても、ルフィは楽しそうな笑顔のまま。 「モチロンだぞ!!おれ、ゾロの作品見たいし、それにゾロと一緒なら楽しいからな!!」 「いや……楽しいかどうかは」 「楽しいぞ!!おれが言うんだから間違いねェ!!!」 どうしてそこを力説するのかが疑問なのだが。 けれど、こんな底抜けの笑顔で断言されると、どうにも反論し辛く。 あー・とか呻いて、もう1度頭を掻いたりしたが。 まぁ。 コイツがそう言うんなら、それでいいか・と。 何処か奇妙に納得できる自分がいるのも確かだから。 ゾロはルフィと視線を合わせ直して、笑った。 照れ隠しの様な、ちょっと苦笑混じりの笑顔で。 「じゃあ、気合い入れねェとな」 「おう!ガンバレ、ゾロ!おれ、応援するからな!!」 拳を振り上げて笑うルフィに、ゾロも笑い返した。 本当に、明日、世界が滅ぶワケではないのだけれど。 仮にそうなったとしても、2人でなら笑っていられるような気がした。 30th, DEC., 2008
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世界最後の日でも食い気に走る2人らぶw ゾロは、現代パラレルだと苦労人設定を良く見かけるので。 逆に愛されて育ったぞ設定にw でもー、熟年らぶらぶ夫婦に当てられて育ったんだから、 ある意味苦労したんだろーなー・とも。 そして、なんと。 『 美 大 生 』!!! 立体造形専攻。しかも、作品は『鉄』で作成。 石の彫刻とどっちにするか迷ったけど、鉄の方がイメージかな・と。 ウソップとは同期。ウソは絵画専攻でルフィとは幼馴染。 ルフィが同居人探し始めた時に、ゾロを紹介したのもウソップ。 んで、ゾロとウソップは、直接会ったのは大学入ってからだけど、 高校の頃から作品を通してお互いの事は知っていたりする。 2008.12.30 |