夕方、突然降り出した雨が、僅か10分足らずで降り出した時と同様に突然止んで。 低く垂れ込めた雲が勢いよく東の空へと流されていき、西の空には対照的な黄金色の夕焼けが見え始める。 鈍色の低い雲と、その彼方の白金色の空との面白い程ぐらい見事な明暗の対比に、ゾロは思わず狭いベランダに出てその光景を眺めていた。 時雨と呼ぶには少し強すぎた雨は気温を少しだけ下げてくれて、湿った涼しい風が吹き抜けて行く。 住宅街の低い家並みに所々アパートや低いビルが混ざり、遥か彼方の高層ビルが夕闇に霞んでいる。 悪くない風景だよな・と頬杖を付いて見渡しながらそう思った。 この部屋に間借りしてから、そろそろ1ヶ月。 前の部屋を出た(というか追い出された)直後はどうしようかと思ったけれど。 中々いい『大家』に会えたもんだ。 我ながら運が良かったと、本心から思う。 そんな事を考えていたら、玄関の鍵が開く大きな音が響いて。 次いでドアが勢いよく開いて、部屋の主が慌ただしく飛び込んで来た。 「ただいまーーーッ!!!うっわー、やられた!!びしょぬれーーーッ!!!!」 「おかえり……って、何だよ。あの雨の中帰って来たのか?」 狭いベランダを2歩で横切り、こじんまりとした居間を抜けて玄関へ向かう。 小さな玄関では、予想通り部屋の主であるルフィが立っていた。 それも、頭の天辺から爪先までずぶ濡れになって。 「だって、こんなすぐに止むと思わなねェもんよー。あーもー、これならバス停で雨宿りするんだったぞ!」 そう言って両手と頭をブルブルと振り回す。 飛んで来た水滴にゾロは顔を顰めた。 「止めろ、犬じゃあるまいし!!タオル持って来てやるから!!」 「だって、びしょびしょで気持ち悪ィー」 「解ったから、大人しく待ってろ」 念を押してから、風呂へと向かい脱衣所に積んであるバスタオルを3枚ぐらい掴んで戻ってくる。 ルフィは玄関で言われた通りに大人しく待っていた。 但し、胸の辺りに持ち上げた両手をパタパタと上下に振る・という奇妙なポーズで、ではあるが。 「……何だ、それは」 半ば呆れつつ、タオルを手渡しながら訊くと、にかっと楽し気な笑顔が答えた。 「待て・のポーズだぞ」 「…………ホントに犬かよ」 盛大に溜息を吐いて、タオルを1枚足元に広げると、残りの1枚を頭から被せた。 そのまま乱暴に頭を拭いてやると、やっぱり楽しそうな笑い声。 ルフィも一応、タオルを無造作に羽織って、乱雑に身体を拭っている。 子供の様な仕草に、我知らず苦笑が漏れていた。 「そのまま風呂行って来い。着替え、持ってってやるから」 「おう!解った!!」 威勢良く答えてルフィが風呂へと走って行く。 その後姿を見送りながら、本当にアレで同い年なのかね・とゾロは呟いていた。 ここは元はと言えば、ルフィが兄のエースと暮らしていた部屋である。 3つ年上のエースは3年前に高校を卒業してこの街の専門学校へ進み、そして去年就職した。 ルフィはこの春大学へと進学し、エースを追ってこの街へと引っ越して来たのだ。 親としても、日常生活に心許ない次男坊に独り暮らしをさせるよりも、まだマシな長男と同居させた方が安心だったのだろう。 エースの職場にもルフィの大学にも調度いいぐらいの立地条件にある2LDKのアパートで、兄弟は一緒に暮らし始めたのだった。 ところが1ヶ月程前、エースに突然、転勤の辞令が降りてしまい。 移動命令をまさか無視する訳にもいかず、引っ越す事となり。 困り果てたのはルフィだった。 2人で暮らすから・と言う事で借りたアパートの家賃は、自分1人の為だけにはちょっと高過ぎて。 でも、まさかエースを追って大学を移る訳にもいかないし。 かと言って、この部屋の事がとても気に入っていたから、引っ越す気にもなれず。 どうしようかと悩み、出した結論が「同居人を探そう」という事だった。 そして、その募集案内を聞いてやって来たのが、ゾロだった。 ゾロはそれまで住んでいたアパートを、大家と口論の末、思い切りぶん殴って飛び出して来たばかりだった。 ちなみに、世間ではその状態を「追い出された」と言うような気がするが。 何はともあれ。 こうして、2人の共同生活は始まった。 一緒に暮らすに当たってのルールなんかも、一応決めた。 その所為なのかどうか、妙に合宿かなにかの様な生活になっていたが、逆にそのお陰で2人とも楽しめている様な所もあった。 なにしろ、通う大学も違えば、趣味も違うし性格だって全然違う。 でもその割には妙にウマが合って。 同居生活は今の所、特に波乱もなく過ぎていた。 でもやっぱり出会ってまだ1ヶ月足らず。 まだまだお互いについて知らない事は、一杯あるものである。 「ハラ減ったぁ!!!ゾロ、夕飯!!!今日のメシ、何?!!!」 賑やかに風呂場からルフィが駆け出してくる。 食事は当番制だ。とはいえ、2人とも作れるメニューは知れているのだが。 なので今日の夕食も、極在り来たりのものである。 ゾロはコンロの火を止めて、鍋を持ち上げながら答えた。 「カレー」 「やった!!!ゾロカレーだ!!!」 「…いや、その名前ヤメロっつってるだろ」 2人で食べるにはどう見ても大きな鍋をテーブルへと運びながら呻くが、ルフィには通用しない。 嬉しそうに鼻唄を歌いながら冷蔵庫へ向かう。 その様子にゾロは首を傾げた。 無類の大食漢であるルフィが、真直ぐにテーブルに来ないのは初めてだ。 「どうした?」 怪訝に思い問えば、ルフィは笑顔のまま冷蔵庫を開けながら答えた。 「ん。まずは、風呂上がりの一杯!だろー?」 「ビールなら出したぞ?」 「えー?ちげーよ、そーじゃなくてー」 缶を掲げてみせるゾロに笑顔で首を振って。 ルフィが冷蔵庫から取り出した物は。 「風呂上がりって言ったら、やっぱコレだろーーー!!!!」 それは、紛う事無き牛乳パックだった。 「………………は?!!」 唖然とするゾロの前で、ルフィはやっぱり鼻唄を歌いながら一番大きなコップを取り出して。 そのコップに溢れんばかりに牛乳を注ぐと。 牛乳パックをシンクに置いて、仰け反る様にしてコップの中身を飲み始めた。 満面の笑顔のままで、喉を鳴らして、それはもう豪快に。 息継ぎもなく一気に飲み干すと。 コップを口から離して、ぷはーッ・と息を吐いた。 「んまーーーーーッ!!!!」 満足げに、一点の曇りも無い笑顔で、実に嬉しそうに言う様子に。 その一連の行動を顎を落として見守ってしまったゾロは。 思わず口走っていた。 それはもう、本心からの本音を。 「……ガキか、テメェは!!!」 「はぁ?!!なんでだよ?!風呂上がりは牛乳が常識だろ?」 「いやビールだろ、普通は!!!」 「えええ?!!!違うぞ、牛乳だろ!!!ビールなんてオヤジじゃんか!!!」 「何言ってやがる!!!おれらの歳ならビールが当たり前だ!!!お前がガキなんだろうが!!!!」 「違うぞ、フツーが牛乳なんだ!!!理想はビン入りのフルーツ牛乳だけどな!!!!」 「その味覚がガキでなくてなんだってんだよ!!!!あんな甘ったるいモンがなんで飲めるんだ!!!」 「それ言ったらビールなんて苦いだけじゃねェか!!!!」 「それが解んねェウチはガキで十分だ!!!!」 「ちげーよ、ゾロがオヤジなんだ!!!!」 「誰がだッ!!!!テメェの幼児味覚、棚に上げてほざいてんじゃねェぞ!!!!」 「そーゆうゾロこそ、ホントはサバ読んでるだろ!!!!」 「ふざけんなァッ!!!!テメェの方こそ、年齢詐称じゃねェのか!!!!」 今まで。 夕飯を食べてから風呂に入っていたし。 その順番も、ゾロが「家主が先だ」と言い張るから、まずルフィからであって。 そして、入れ違いにゾロが行く・と言う感じだったから。 ゾロはルフィの風呂上がりを、この日、初めて見た訳で。 だから、知らなかったのだ。 『風呂上がりの一杯』に、これだけ認識の差があると言う事を。 日はもうとっぷりと暮れて。 細い三日月が欠伸をしながら眠りにつく為に水平線を目指している時刻。 まだまだお互いを知らない2人の、本気なんだけど限りなく阿呆らしい言い争いは、終わる様子を見せずに続いていたという。 25th, SEP., 2008
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ゾロがラム酒じゃなくてビールを飲んでたので、パラレル決定。 だけど良く考えたら、何処かの島に上陸した時にすれば良かったんじゃないか・と。 気が付いた時にはもう、最後の言い争いに入ってたよ。 ・・・ちょと遅かった。まいかー。 要は、現代版航海日和w 細かい設置はほとんど考えてないけど。 とりあえず、ナゼかエースの事をw エース転勤の真相は、飲み会で上司をからかいすぎて逆鱗に触れたから・の様な気がする。 んで、その上司がバギーで。 エース絡みだから社長は当然、白髭で。 この事が原因で、今度は逆にバギーが白髭に睨まれてたりすると、笑えるw ついでにバギーと同期にシャンクスがいて、 しかももうとっくに昇格しまくってて部長とかになってたりすると、尚笑えるーー!! ルフィの就職先はここだろうなー。縁故採用で<酷w エースは何年か後には戻ってくると思うよ。栄転で。 飛ばされた先は最南端の支社なので、ついでにサーフィンとかダイビングとかもマスターして、逞しい南国の男になって帰ってくるでしょうw ついでにヨメさんとか取っ捕まえて来ないかなー♪ ・・・・・って、誰なんだ、エースのヨメ! あ・ついでに。 ゾロを追い出した前のアパートの大家は、ワポルのような気がしてまスwww 2008.9.25 |