a day in VALHALLA






「誕生日?の、プレゼント?」
「そう。あんたもうすぐ誕生日でしょ?なんか欲しいもの、ある?」
「あァ、言っとくけどメシ以外でな」



 順調に航海を続けるサウザンド・サニー号のダイニングで。
 何時もの様に賑やかな朝食を終えた後に。
 食後のコーヒーなぞ飲みながら寛いだ時間を過ごしていた時。

 不意にナミの口から出たのは、ルフィの誕生日の話題だった。
 誕生日を3日後に控えた船長に、何か欲しいものはあるのか・と。



 返事より先に釘を刺したサンジに、ルフィの絶叫が返る。
「ええぇ?!!メシなしなのか?!!」
「そうじゃねェよ、アホ。メシはちゃんと作るから、それ以外で・って事だ」
「メシだとサンジからだけのプレゼントになっちゃうからな。おれ達からのプレゼントなんだから、それ以外にしてくれよ」
 サンジの返答にウソップが続けて笑う。
 ああ・とホッとした様に笑うと、ルフィは即答した。
「んじゃ、銅像!!こーゆぅ、ガオーッてしたカッコいいヤツ!!!」
「却下!!!!」
 身振り付きの回答は、速攻で却下されて。
 更に間髪置かずナミの鉄拳が下った。
 漫才の様なやり取りに、ゾロとロビンが同時に笑う。
「な、なんでだよぉ。何でもいいって言ったじゃんか」
「だからって、もう少しマシなものにしてよねッ!!!!」
 殴られた頭を抑えて反論するルフィをナミが一喝する。
 本気の目で睨みつけられて、渋々ルフィも首を捻る。
「えーと、じゃあ……この前の港で見たブリキの怪獣?」
「……なんでそんな物しか思いつかないのよ」
「それ、ウソップでも作れるんじゃないか?」
 凄むナミの隣でチョッパーが口を挟んだ。
 胸を張って頷くウソップの横でフランキーが苦笑する。
「もうちょっと考えてやれよ。みんな、お前ェの事を想って言ってくれてるんだぜ?」
「それはそうだけどなぁ。…………うーん、欲しい物、かぁ」
 眉間に皺を寄せて首を捻るルフィを見ながら、サンジはロビンのカップにコーヒーを注いだ。
 ルフィは顎に手を当てて考え込む。
 その顔をチョッパーが覗き込んだ。
「そんな必死で考えなくても、何かないのか?」
「それがなぁ。改めて訊かれると、これと言ったものが出て来ねェんだよなぁ……」
 呻いて更に首を捻るルフィに、他のみんなは顔を見合わせた。
 ルフィは意外と物欲が無い。
 欲しがるものは大抵食べ物か、そうでなかったら子供の玩具の様なものばかりだ。
 なので、改めてプレゼントと言われると、どうにも思いつかないようで。
 首を捻って、ううむ・と唸る。でもやっぱり思いつかない。
 天井を仰ぎ見て、えーと・と呟く。だけど欲しいものは思い浮かばず。
 頭を抑えて、あー・と呻く。それでもどうしても考えつかなくて。
 ふ・と上げた目線が、ゾロと合った。
 それは本当に、偶然だったけど。

 それでも。


 ルフィの脳裏には、天啓の様に閃いたものがあったようだ。


「ゾロッ!!!!」
「お?おぅ?」
 いきなりガバッと身を起こし、テーブルに両手を付いて怒鳴ったルフィに、ゾロは反射的に身を引く。
 が、そんな事、お構い無しにルフィは目を輝かせてゾロを指差して。
「うん、ゾロだ!!ゾロがいい!!!」
「だ、だから何がだよ」
 今にも首も伸ばしそうな勢いのルフィから身を引きつつ、ゾロが問う。
 それにルフィは満面の笑みを浮かべて答えた。

「プレゼント!!!おれ、ゾロと思いっきりやりてェ!!!!」



 それはもう、全員が勢い良く飛び退るような一言を。



「何を言い出すんだ、テメェはーーーーーーッッ!!!!」
 真っ先に正気に戻ったゾロが、首まで真っ赤にしながら怒鳴る。
 それにルフィは不満そうに両手を振り回した。
「ええ?なんだよ、ゾロはやりたくねェのかー?」
「だから、何をだッ、何をーーーッッ!!!」
「……あんた達、何時の間にそういう関係になってたの?」
 態度は引いてみせながら、目には楽し気な光を浮かべてナミが口を挟んだ。
「別にどういう関係にもなってねェッ!!!!」
「そうか、ストイックすぎるとそーゆう方向に行っちまうのか」
「そうもこうも、どういう方向にも行ってねェよ、おれは!!!!」
「ってか、お前ェらの場合、どっちがどうなんだ?」
「だから勝手に話を進めるなーーーッッ!!!!」
 ウソップとフランキーにまで立て続けに言われ、チョッパーには驚きで固まり切った表情で見られ、更にはサンジに妙な哀れみの目線を送られて、ゾロは本気でキレそうになったが。
 元凶のルフィは良く解っていない様な態度で口を尖らせた。
「だってウイスキーピーク以来だぞ?あれから1度もやってねェんだし」
「だから何の話だ!!!…って、ウイスキーピーク?」
「あ」
 ゾロが聞き返し、ナミもその地名に思い当たった様だ。
「あーあーあー。なぁんだ、そっちの話なの?」
「……テメェ、紛らわしい言い方してんじゃねェよ」
 ナミはつまらなそうに肩を落とし、ゾロは脱力してテーブルに突っ伏した。
 ルフィは怪訝そうに首を傾げ、他の皆は話に付いていけず唖然とする。
「ん?なんかヘンな事、言ったか?おれ」
「ヘンも何も……気でも振れたかと思ったぞ。まぁ、そう言う事ならいいぜ」
「え?ええ?何の話だ?」
 チョッパーが3人の顔を見回す。
 ウソップとフランキーが顔を見合わせて首を捻った。
 ロビンは成り行きを見守りながらコーヒーに口を付ける。
 そんな中で、ナミは思案顔で口を開いた。
「でも、あんた達に本気で暴れられたら船が壊れそうだわ」
「あ、暴れる?!!!」
 唐突に飛び出した物騒な単語に、ウソップが目を剥いた。
「ああ。無人島にでも降ろしてもらえりゃいいぞ」
「そうだな。その方が思いっきりやれそうだし!!」
「そうしてくれる?一番近い島を調べるから」
「だから、待てお前ェら!!!一体、何をする気なんだ!!!」
 3人だけで進んで行く会話に、代表するようにフランキーが怒鳴って。
 それにルフィは、全開の笑顔で答えた。
 それはもう、物騒な答えを。


「ケンカだ!!!!」




 その答えに、ゾロとナミを除く全員が絶句したのは、言うまでも無い。















 そして迎えた、誕生日当日。



「いーい?!夕方になったらウソップが印を上げるから、それを見たら戻って来なさいよ?!!」
「おー!解ってるって!!」
「じゃあ、行ってくる」

 声を掛けるナミに笑って手を振って。
 そして、2人はあっさりとゴムゴムのロケットで島に上陸して行った。
 航路の途中にある無人島。
 ログを変えてしまわない様に、サニー号は少し離れた海上に停泊している。

 昼食の弁当を詰めたリュックを背負って。
 実にあっさりと2人が飛んで行って、程なく。
 その島から轟音が鳴り響いた。
 地響きと共に土煙が立つ様まで見えて。


 その様子に、船に残った皆は呆れるやら苦笑するやらだった。


「誕生日プレゼントが真剣勝負、とはねェ」
「まぁ、らしいっって言えばらしいわね」
 サンジが呆れた様に呟き、ナミは苦笑する。
「前はよくやってたらしいのよ。まだ2人で旅をしていた頃ね。イーストブルーじゃロクな敵がいなかったから、ケンカして気を紛らわせてたって言ってたわ」
 ナミの説明にウソップとチョッパーが目を丸くする。
 側でロビンは楽し気に笑った。
「いいわね、元気があって」
「……そういう問題じゃないと思うぞ」
「ははは。まァ、気にすんな!」
 ウソップががっくりと肩を落とし、フランキーがその肩を叩いた。
 チョッパーだけが気忙し気におろおろしている。
「包帯と消毒薬と軟膏に傷薬に……湿布もいるよなぁ。添え木も用意した方がいいかな。あああ、もぅ、怪我ぐらいは構わないけど、死んで帰って来るなよぉ」
「いや、死んだら帰って来れねェって」
 ブツブツと呟くチョッパーにウソップがツッコみ、フランキーがまた笑う。
 その様子を見ながら、サンジは踵を返した。
「サンジ君?」
「夕飯の仕込みに入りますよ。何時もの3割増で喰うに決ってますからね、あのクソバカ共は」
 そう言いながら、その顔は物凄く嬉しそうで。
 料理人としての喜びに溢れたその表情に、自然とナミの顔も綻んだ。
「うん、そうね。期待してるわよ、サンジ君」
「ぅお任せ下さいッ、ナミさん!!!」
 恋の構えで答えてから、スキップでキッチンへすっ飛んで行くサンジを他の男性陣は半ば呆れて見送った。
 ナミとロビンは楽しそうに笑ったまま。
「お酒も念の為に、1樽余分に買っておいて良かったわね」
「どうかしら?あのウワバミには、それでも足りないかもよ」
「ふふ。私達がちょっと控えてあげた方がいいかしら」
「アイツの為に?それもハラ立つわ」
 そう言いながらもナミの笑顔は曇らない。
 その顔を見てロビンの笑みが深くなった。
 ウソップも笑顔で腕まくりのポーズをして。
「さて・と!飾り付けに入るかな!!」
「おう、おれも手伝うぜ!」
「おれも、薬の準備が終ったら行くから!」
 フランキーとチョッパーが笑顔で応じた。
 チョッパーが走り去り、歩き出す2人にロビンが続く。
「どうした?オメェ」
「私も手伝うわ」
「そりゃあ、助かる!」
 申し出にウソップが大喜びで頷く。ロビンの能力はこういう時にもとても役立つ。
 その様子を見ていたナミが、ロビンの腕に飛びついた。
「私も手伝うわ」
「何ぃ〜〜〜〜〜ッッ!!!!」
「そりゃあ、どういう風の吹き回しだ、オイ?!!」
 ウソップとフランキーが上げた絶叫に、ナミはむっとした。
「ちょっと、何よその言い草」
「オメェが手伝うなんて、嵐の前触れかよ」
「い、いいや、ナミ、悪いんだが、手伝ってもらってもお礼をする余裕は無いから、だから……」
「……だれがお礼目当てだって言ったのよ」
「ボランティアァァッ?!!!もっとあり得ねェッ!!!!」
「やべェ!!!明日は大嵐だぞ!!!!」
「あんた達、いい加減にしなさいよねッ!!!」
「……請求はルフィに行くのかしら」
「ひっどーい!!!ロビンまでそんな事、言うの?!!!」
 怒鳴りながら叫びながらも、何処かそれは楽し気で。
 抜ける様な青空に何処までも響き渡って。

 小島から、新たな土煙が遠い地響きと共に上がった。




「ゴムゴムのっ、バズー……ッ!!!」
「左手っっ!!!!」
「……っと!じゃあ、半分バズーガッッ!!!」
「なんだよ、それ!!!」
 呆れながらも右腕だけのバズーガからゾロが飛び退く。
 着地と同時に右手の刀を逆手に持ち替え、一気に振り抜いた。
「二刀流、72煩悩砲!!!」
「ぅおおおッ?!!!…っぶねェ!!!」
 空を薙ぐ斬撃から間一髪で身を躱して。
 攻撃と同時に突っ込んでくるゾロに、左足を振り抜いた。
「ゴムゴムの鞭!!!」
「く…っ!!!」
 中段への蹴りを刀の腹で受け止め。
 斬りかかる左腕をルフィが拳で止める。
 拮抗する力の対峙。
 ぶつかり合う力が爆風の様に砂塵を舞き上げた。
 睨み合い。
 そして。


 同時に浮かぶ笑み。




 楽しくてたまらない・と言う様に、2人は同質の笑みを浮かべた。




 力の拮抗は一瞬で解け、互いを弾き飛ばす様に飛び退る。
 笑みを浮かべたまま互いを見据え、再び構える。
「ハンデ戦ってのも、結構楽しいな!」
「ああ、新鮮だぜ」
 構えは解かずに笑い合う。
 ゾロが雪走を使えない状態のため、ルフィは左手を使わない事にしたのだ。
 お互いにハンデを背負った状態で勝負するのは初めてだったのだが。
 これが、意外に楽しい。
 制限された状況の中で如何に全力を出すか。
 それを考えながら相手の手を読み、技を繰り出す。
 久し振りに何も背負わずに、ただ無心に闘えるのは本当に楽しかった。
 ゾロが2振りの刀を構え直す。
「まァ、本当は2刀だからってさしてハンデにはならねェけどな」
「何だよ、それ!ずりィぞ今さら!!」
 意地悪く言われた爆弾発言にルフィが目を剥く。
 ゾロは平然と笑って受け流したが。
 軽く口を尖らせたルフィは、次の瞬間、にや・と笑った。
「じゃあ、これもアリだよなぁ」
 そう言うと素早く右手の親指を銜えて。
 ゾロがぎょっとして止めに入ったが、遅かった。
「おい!ちょっと待て、それは……!!」
「待ったナシ!!いっくぞーっ!!!」
 言うや否や、思い切り息を吹き込む。
 一気に右腕が巨大化して。
「ギア3!!!!」
 その大腕を繰り出して来た。
「ゴムゴムの、巨人の銃!!!!」
「ぅおあッッ!!!」
 流石に至近距離からの巨大な拳を完全には避け切れず、ゾロが吹っ飛んだ。
 木々を薙ぎ倒して地面に叩き付けられ、それでも間髪置かずに跳ね起きる。
「テメェ!!!アリかよ、それはッッ!!!!」
 額を伝う血を拳で拭って怒鳴ると、ルフィは悪びれもせずに笑う。
「ししし!だってナシだって言われなかったもんよ!!」
「だからってなぁ…ッ!!!大体、それは使った後で縮んじまうんだろうが!!!」
「あー、そっかぁ」
 思案顔は一瞬。
 直ぐに笑顔でルフィは巨人の拳を繰り出してくる。
「じゃあ、縮んでる間は休みって事で!!!」
「勝手に決めてんじゃねェッ!!!!」
 超級破壊力の拳を避けながらゾロは2刀で応戦する。
 サードにはパワーはあるがスピードに欠ける・という欠点があるのだが。
 ゾロが2刀しか使えない事を考えると丁度いいのかもしれない。
「いいだろ?!!だって」
 腕に吹き込んだ空気を足へと移動させて。
 巨人の足が、一気に森を薙ぎ払った。


「おれの、誕生日なんだからよ!!!!」


 蹴撃を躱して、次いで倒れてくる木々を避け、着地して。
 ゾロは笑った。
 しょうがねェな・と呟いて。

 この、我が侭な船長に敵う訳が無い。


 ゾロがルフィを止めるのは、それが王道を外した時のみ。


 あとは余りにも阿呆な行動を取ろうとした時だけだから。
 このぐらいは許容範囲だろう。
「……膨らんでた時間と同じだけ縮むんだったよな」
「おう!!だから、さっさとケリ付けるぞ!!!」
 膨れ上がった足が高々と持ち上がって。
 それを見たゾロが、口の端に笑みを浮かべる。
 左足は一気に振り下ろされた。
「巨人の斧!!!!」
 叩き付けられる破壊力から、身を躱して。
 刀を構え一気に突進した。
「二刀流、弐斬り」
「……ぃっ!!!」
「閃!!!!」
 突っ込んで来る闘気に、ルフィが慌てて上半身を引く。
 その鼻先すれすれを刀が霞めた。
 互いに体勢を立て直すと、次の攻撃に入る。
 巨大な拳を躱して、斬撃が応じる。
 手加減なんて、絶対にしない。
 それは戦士に対する最大の侮辱だから。

 闘気と闘気がぶつかり合い。
 拳圧と剣圧が巻き起こす爆風が辺りを薙ぎ払う。
 本気で最高の全力勝負。


 それを本心から楽しみながら。


 陽が落ちるまで宴は続く。




 戦いに生きる事を決めた者達の、彼らだけの宴が。




















 やがて、太陽が西の水平線に姿を消して。


 今度は新たな宴が始まる。
 仲間達との、最高の祝宴が。












「ハッピー・バースデイ、ルフィ!!!!」











5th, MAY, 2008





お約束♪
あー、でも、久し振りに最強コンビをたっぷり書いた気がする。
後半の勝負シーンが、思ったより長引いたのはそのせいかな。
やっぱ書いてて楽しいよぅ、この2人。

昼は戦いを楽しみ、夜は宴に興ずる。
まさにヴァルハラだよなー・と思ったけど。
コイツらが来たら、ヴァルハラの方が迷惑しそうだ(爆
ラグナロクより前にヴァルハラ崩壊しそうw



2008.5.5



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