Hole lot a LOVE






「なぁなぁロビン、明日、誕生日だろ?」

 そう切り出したのはルフィ。
 夕飯も終わって、それぞれがのんびりと寛いでいたダイニングにて。
 不意に発した一言に、全員が動きを止めて、2人の方へと視線を向けた。
 ルフィはロビンの隣に座り、嬉しそうに笑っている。
 コーヒーを飲もうと上げかけた手をそのままに、ロビンは驚いた顔でルフィを見た。
「え。ええ、そうだけど……」
 不思議そうに小首を傾げる。
 確かに翌日は自分の誕生日だから、否定する必要はないのだけれども。
 何故、そんな事を確認されるのかが解らなかったのだ。
 そのロビンの返事に、ルフィは一層嬉しそうに笑った。
「だよな!明日だもんな!だからな、明日、宴するからな!!!」
「え?」
 ルフィの台詞にロビンが目を丸くする。何度も大きく瞬きをして、自分の隣にいる子供の様な笑顔を見つめてしまう。
 隣からはそれ以上の言葉は無く、ただ嬉しそうに満面の笑顔が自分を見ているだけで。
 少し困って周りを見渡せば、全員が笑って自分達を見つめていた。
 代表する様にナミが口を開く。
「本当はナイショにしてて、ビックリさせようと思ってたんだけど……明日ね、ロビンのバースデーパーティをするからね」
「腕によりをかけてごちそう作りますからね、ロビンちゃん!」
 サンジが腕まくりをして笑う。
 宴だー!と騒ぐルフィに、お前は肉があればいいんだろ・とウソップがツッコミを入れる。
 チョッパーとフランキーも便乗して騒ぎ出すから、ダイニングは何時しか大騒ぎになって行く。
 でも、その中でまだロビンは、戸惑った顔をしていて。
 その表情にナミが笑って肩を寄せた。
「船の上だから、そんなに派手には出来ないけど。でも、皆で盛り上げるからね」
「いいのかしら……。私はそこまでしてもらわなくても構わないのだけれども」
「そう言うなって、ロビンちゃん。どうせアイツらは騒ぎてェだけなんだからよ」
「そうそう。ルフィに騒ぐ口実をあげるんだと思って?ね?」
 ナミがそう言って微笑む。
 その笑顔にロビンもようやく、笑みを浮かべた。
「それもそうね。ありがとう、楽しみにしているわ」
 笑顔を返しながらも、ナミはそっとロビンに囁いた。
「でも、バカ騒ぎになる事だけは覚悟しておいてね」
 そう言って、片目を閉じる。
 ロビンも心得ている事だから、笑って頷いた。
 周りからは楽しそうな笑い声。
 明日まで待ち切れない・と言う様なその声にロビンの笑みが深くなる。
 その笑顔を見て、ナミも一層嬉しそうに笑った。



 くすぐったい様な嬉しい様な気持ちを抱えて、その日はなんだか眠りに付けなかった。
 自分の誕生日を祝ってくれる・という、その気持ちが一番嬉しかったから。
 胸が躍り出す様な心地を抱いてようやく眠りに付けたのは、日付が変わった頃だった。
 明日が楽しみだ・なんて気持ちになる事自体が、初めてだった。





 けれど。











 結論からいうと、その日、ロビンの誕生パーティは開かれなかったのだ。











 海が荒れ出したのは、まだ夜も明け切らないうちだった。
 風が強くなるのと同時に海面がうねり始める。
 うねりが大波となり、そして大時化(おおしけ)になるのはあっという間だった。
 常に無い大時化からようやく抜け出した所で出くわしたのが、同業者・しかも3隻。
 こっちの疲労も考えずに襲って来る彼らを蹴散らした頃には、既に太陽は中天を回っていた。
 やっと一息付けるかと思った時に、騒ぎを嗅ぎ付けたらしい熱心な海軍が登場。
 熱心な上にしつこいその海軍を追い散らすのに、また一手間かかり。
 追い打ちの様に、カームベルトから回遊してきたらしい大型の海王類の群れに出くわす始末。
 更に逃げ惑っている只中に、ルフィが海に落ちる・というお約束まで付いて来て。


 とにかく、畳み掛ける様に色々な事が起こる1日で。
 ようやく船が静けさを取り戻した頃には、もう日はとっくに暮れてしまっていた。













「ごめんね、ロビン!!」
 ナミが必死にロビンに謝る。
 他のみんなも疲れ果てていたけれど、それでも口々に謝罪の言葉を口にしていた。
「明日まで待ってくれるか?!もう1回準備して、明日仕切り直すからよ…!!」
 せっかく仕込んであった料理も、この騒ぎの中で大半がダメになってしまっていたのだ。
 サンジの哀願に、ロビンはむしろ楽しそうに笑った。
「いいわよ、気にしないで。むしろこのぐらいの方が、印象に残って好いかもしれないわね」
「良くねェって!!!」
 でも、流石にこの発言には他のみんなも一斉に反論してしまう。
「そうはいかねェよ!明日こそはちゃんとパーティするからさ!!」
「宴を中止にするなんざ、男のやる事じゃねェからな」
「そうだぞ!!宴は絶対に止めちゃいけねェんだ!!!肉がもったいねェ!!」
「いやそこは問題じゃねェだろ!」
 わいわいと騒ぐみんなに、ロビンはそれでも優しく笑う。
「楽しい思い出になったから、それだけで十分よ。みんなも気にしないでね。さ、今日は大変だったし、もう休みましょう?」
 席を立ちそうなロビンに、ナミが慌てて声をかけた。
「まって、ロビン!これだけは今日、渡さないと!」
 そう言って取り出したのは、プレゼント。
 リボンのかかった細長い箱に、ロビンは目を見開く。
「この前寄った港で買っておいたの。みんなでお金を出し合ったのよ」
 ナミがそう言うと、他のみんなも周りに集まって来た。
「うん、みんなで買ったんだ!」
「ナミが宝払いでいいって言ってくれたからさー!」
「……それをわざわざ言うなよな」
「自信作だぞー!!なんたってこのおれ様が」
「あぁ?!何言ってやがる、選んだのはナミさんだろうが!!」
「いや、ラッピングしたって言おうとしてたんだが」
「はいはい、そこはどうでもいいから」
「どうでもいいのかよ!!」
「いいの!ホラ、みんな!!」
 絶対者の号令に、全員が慌てて従う。
 驚くロビンに、ナミを中心に集まった全員が、1度、顔を見合わせ。
 それからロビンの方へと向き直り、笑顔になって。
 そして。

「誕生日、おめでとう!!!」

 声を揃えて、言った。
 単純で、でも心からの祝福の言葉を。



 その言葉に。
 笑顔に。
 次いで起こる喝采に。



 返せる言葉は一つだから。






「……ありがとう」






 はにかみながらも、そう一言返すのが精一杯だった。
 頬が熱くなって来るのが自分でもよく解った。


 ナミの手からロビンの手へとプレゼントが渡る。
 それを見て、みんなが一層楽し気に騒ぎ出した。
 その声に包まれて開いたプレゼントの中身は、大きなアメジストの付いたペンダント。
「誕生石だし、ロビンのイメージだよな!」
 ウソップがそう言うとロビンが珍しい程に赤くなった。
 サンジがロビンの手からペンダントを受取り、その首に丁寧に掛けてくれる。
「おぉ!好い感じじゃねェか!!」
「うん、似合うぞロビン!!」
 フランキーとチョッパーが身を乗り出して言うから、ロビンは両手で頬を押さえてしまった。
 ふと目が合ったゾロが、普段は見せない穏やかな笑みを向けてくれる。
 すぐ側には、ルフィとナミの心からの笑顔。
 背中にはサンジの暖かな気配を感じて。

 胸の奥に、優しい温もりが灯る。
 だから……自然と口にしていた。
 本当に、本当に嬉しかったから。





「……誕生日を祝ってもらうなんて、オハラを出て以来だわ」






 嬉しそうに、倖せそうに呟いた一言だったのだけれども。


 けれど。


 その一言に、全員が見事なまでに固まった。






「あら?どうしたの、みんな」
 石と化した全員に、むしろロビンの方が不思議そうに声をかける。
 でも直ぐに声を返せた者はいなくて。
 完全に固まりきっている全員を、ロビンは首を傾げて見つめた。
「私、何か可笑しな事を言ったかしら?」
 頬に右手を添えてそう呟いた。
 少し考えては見たが、どうにも思いつかない。
 そのまま訪れる奇妙な静寂。
 ぎこちのない声がそれを破ったのは、結構な時間が経ってからだった。
「お……おかしな…って言うか……」
「いや、その、お前ェが島を出たのってよぉ……ガキの頃じゃなかったのかい?」
「ええ、そうよ?」
 フランキーに問われて怪訝そうに頷く。
 その答えに改めて皆は視線を合わせた。
「つまり……20年前、よね?」
「じゃあ、20年間、誕生日祝いってのは……その、何も……?」
「ええ。そこまで深く関わった組織はなかったから」
 ウソップに戸惑いがちに訊かれてあっさりと頷く。
「バロックワークスは?長かったんだろう?」
「社訓が『謎』というような会社よ?生年月日だって当然極秘だわ。私もクロコダイルの誕生日なんて知らなかったし」
 ゾロの問いにもあっさりと答える。
 幾つもの組織を渡り歩いて来たけれど、何処でもそんな事は訊かれもしなかった。勿論、自分から話す事もなかったし。
 誰にも深く関わらなかった。だからこそ今まで行き抜いて来れたのだけれども。
 オハラでだって、祝ってくれたのは学者の仲間達だけだった。
 だから、20年……いやもっと長く、誕生日を祝った事は無かったのだ。
 自分の誕生日を祝ってもらえる。
 それ自体が、ロビンにとっては殆ど経験の無い事だった。

 再び訪れた沈黙。
 静かで妙に重たい空気。



 それを打ち破ったのは、ルフィの声だった。



「……それじゃあダメだ!!!」
 いきなりの声に全員が驚いてルフィを振り返る。
 ルフィは拳を固めて眉を跳ね上げて、どう見ても怒っている様にしか見えない態度で。
「ど、どうしたんだ、いきなり」
 驚いて目を丸くするチョッパーには答えず、勢い良くサンジの方へと振り返って。
 そして、爆弾発言をかましたのだ。

「サンジ、明日の宴は中止にするぞ!!!」

 あまりにも予想外の一言に、全員が一瞬固まって。
 そして今度は、一気に怒号が飛び交う事になった。
「な…っ、何言ってやがんだ手前ェは!!!」
「ルフィ?!オイ、冗談でもそりゃあねェぞ?!!」
「何が冗談だ!おれは本気だぞ!!!」
「じゃあ、尚更悪いわよ!!!あんたどういうつもりなの!!!」
「ヒドいぞ、ルフィ!!ロビンがかわいそうだーー!!」
「いくら何でもそりゃあねェだろ!!ニコ・ロビンだって本当は楽しみにしてんだぞ?!!」
「わかってるよ!!だからダメなんだ!!!」
「だから何でダメなんだよ!!!」
「意味、分かんねェぞー、ルフィ!!」
「ロビンちゃんにクソ謝れ、オラァ!!!」
「ちゃんと説明してよね!!理由次第じゃただじゃおかないわよ!!!」
「オゥ、きっちり説明しやがれ!!!」
「だってロビンは20年間、誕生日をやってないんだろう?!!」
「そうだぞ!だからこそ、明日みんなで……!!」
「だからそれじゃあダメなんだよ!!!!」
 ひと際、大きく怒鳴ってから。
 ルフィは言い放った。


「だって、ロビンの20年分の誕生日を祝わなくちゃならねェんだぞ!!!!」


 その言葉に全員が息を飲んだ。
 予期しなかった理由の持つ正当性に。
 もちろん、反論など出来る訳も無く。
 立ち尽くすみんなの顔を見渡してルフィは言葉を続ける。
「20年分、まとめて祝うんだ!!だから思いっきり盛大にやらねェと!!今、船にあるモンじゃ有り合わせにしかならねェ、だからダメなんだ!!!」
 そう言い切って顎を引く。
 真理を知る船長の言葉は、全員を納得させるには十分だった。

「…もぅ、それならそうと言いなさいよね」
 ナミが軽く息を吐いてそう呟いた。
「一番近くの島で補給をしてから、でいいわね?船長」
「おう!もちろんだ!!どのぐらいかかる?」
「今、調べるわ」
 そう答えて海図を手に取る。
 サンジが笑って新しいタバコに火を点けた。
「メニューも練り直さねェとな」
「飾り付けもだな!すんげェの考えるからまかせとけ!!」
「お、おれも手伝うぞ!!」
「おれ様もだぜ!!スーパーな装飾を考案してやろうじゃねェか!!」
 ウソップにチョッパーとフランキーが続く。
 ナミが海図を叩いた。
「この島ね!あと……3日もあれば着くわよ」
「じゃあ宴は3日後だな!!!」
「よしきたァ!!!」
 一斉にはしゃぎ出すみんなを見渡して、ロビンは少し戸惑った顔になってしまった。
「あの、別にそこまでしなくても……」
「やめとけ。言ってもムダだ」
 口を開きかけたが、ゾロに静止された。
 顔を向けると、ゾロも軽い苦笑を浮かべている。
「でも」
「アイツがああ言い出したらテコでも動かねェよ。……身を以て知ったばっかりだろ?」
 確かにエニエス・ロビーの一件で、ルフィの頑固さはいやと言う程分かったから。
 そう言われれば、もう、納得するしか無くて。
「……それもそうね」
「だろ?」
 顔を見合わせて笑う。
 今はただ、みんなの気持ちを嬉しく思うだけで良い様に思えて。
 嬉しそうに楽しそうに盛り上がっている雰囲気に水を差す事も無いのだし。
 生きていて良いのだ、と。そう言ってくれた仲間達に応える為に。
「楽しみにしててくれよな!!」
「ええ、期待してるわ」
「お任せください、ロビンちゃーーーん!!!!」
「おれも!おれもがんばるから!!」
「スーパー任せとけ!!!」
 みんなの思いに笑顔で応えて。
 ロビンは心から、この仲間達に出会えた事を嬉しく思った。







 この子供ばかりのような海賊船に乗ってから、自分はどれだけ変わったのだろうか。
 自分のこれまでの時間で、手に入れられなかったもの。そして失ってしまったもの。
 そんな沢山の大切なものを、改めて手にしてゆく。
 与えられる言葉一つ、笑顔一つに、満たされて。
 放浪し続けた20年という時間を、少しずつ取り戻して行こうと思った。


 この船で、生きるという事を、許してもらえたのだから。
 笑って生きていいのだと、そう言ってもらえたのだから。





 その想いに応えたいと思った。
 自分が自分として生きている限り。









Happy Birthday ROBIN!!
6th, FEB., 2008






20年間、祝ってくれる人には出会えなかったと思う。
オハラでも、学者達だけだったと思う。
それを知ったら。
……ルフィは当然、怒るでしょ。

会話の勢いを出す為に地文を削ってみた。
誰の台詞かは分かると思うし。
ちなみに、ゾロの出番が少ない理由は、2人の会話になっちゃうからw



2008.2.6



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